人間の記憶は日々、更新されるもの。素晴らしい風景に新たに出会えば、かつて拝んだ風景の記憶は相対的に薄れていきます。それでもなお「あそこは良かった」といつまでも残り続けるものこそが、きっと「本物」なのでしょう。私にとって、青森県の尻屋崎(しりやざき)はそんな場所です。


 本州の最北東端にある青森・下北半島の、さらに最北東端の最果て。海を望む高台に、日本最大級の明るさを誇るという白亜の灯台がよく映えます。ここまで北に来れば三陸海岸の険しさはまるでなく、押し寄せる波が岩場に当たるタッチも柔らかいように感じます。北国なのにどこか南国を思わせるのは、尻屋崎一帯に牧草地が多いからでしょうか。


青森・下北半島の尻屋埼灯台
青森・下北半島の尻屋埼灯台

 牧草地には寒立馬(かんだちめ)という馬たちが放牧されています。尻屋崎がある東通村では、南部藩時代から、小柄で寒さと粗食に耐えられる馬が海岸に放牧されていたそう。この馬から交配、改良を重ね、いまの寒立馬に至ります。冬は観光客は尻屋崎に入れませんが、いまやどっしり体型になった馬たちが雪の中で立つ「寒立」の姿は心揺さぶるものがあると聞きます。


 私が初めて訪れたのは12年10月末。会社の「自転車全国行脚プロジェクト」で走っていた際、寄り道してみました。当時は嫌なことも多々あったのですが、ここの「馬と海」の風景を眺めていたら、気持ちが少し晴れました。日本にもこういう場所があるんだな。狭い世界のことで悩んでもいいことないな。ここの馬たちは触ってもあまり怒りません。寒立馬の瞳の優しさに見とれましたが、冬が来れば彼らは耐え忍ぶ日々。背中をたたき、心ばかりの激励を。


寒立馬は人にも慣れています
寒立馬は人にも慣れています

 時が過ぎ15年9月末。また寒立馬に会いに来ました。尻屋崎一帯に40頭ほどが放牧されていますが、必ずしも見える場所にいるとは限りません。全頭、森の中にいることもあるそう。尻屋崎までの道中は割と長いので、無事に寒立馬を見つけて安堵します。


津軽海峡をバックに草をついばむ寒立馬
津軽海峡をバックに草をついばむ寒立馬

 尻屋崎の欠点は2つ。まず、遠いこと。そして、帰りたくなくなること。尻屋崎に2回行きましたが「馬と海と灯台」の最強構図の瞬間には巡り合えていません。もっと灯台寄りに行ってよ、と馬に頼みながら、優しく強い一挙手一投足を眺めている時間が楽しくて仕方ありません。人生であと何度行けるか。私は尻屋崎に惚れています。【金子B】


海沿いのまっすぐな道路と寒立馬
海沿いのまっすぐな道路と寒立馬

「尻屋崎」へ行くには?

 東北新幹線・八戸駅や青森駅から電車を乗り継ぎ、むつ市内からバスで向かうのが公共交通手段ですが、かなり時間がかかります。八戸市街から車で向かうのがベスト。六ケ所村を通る半島東岸ルートが最短ですが、それでも2時間半弱。高速道部分は少なく、ほぼ直線のルート。意外と交通量もあり、体感的にかなり疲れます。マグロで有名な大間や恐山、フェリーで大間対岸の函館も含め、2~3泊のゆったり日程がオススメです。


Wonderful View No.30 "The cape Shiriya"

The cape Shiriya is at the east end of the northernmost part of Honshu (Japanese mainland). The lighthouse of the cape has the brightness of the Japanese top-class and becomes the signpost of the ship via the Tsugaru Strait. The cape Shiriya is a place with much snow, but many horses are put out to pasture.

[DATA]

Address: 1-1, Shiriyazaki, Shiriya, Higashidori-mura, Aomori-ken

Access: About 2hours from Hachinohe station by car

Parking: For about 20 cars