標高は一気には上がらず、山道は平たんに近いまま延々と続く。高さ5メートル程度の木々が連なり、横の視界はふさがれ続ける。中心角の小さなカーブが連続し、50メートル先は見えないことが多い。他の車の姿は、前後とも全くなし。路肩に時折潜む側溝が怖い。疲れる。こんなドライブが30分以上続くと、かなり疲弊する。たどり着いた月山8合目の駐車場は、ほぼ埋まっていた。人混みは嫌いなのに、妙にホッとさせられた。


月山8合目駐車場は全国各地からの車で埋まる
月山8合目駐車場は全国各地からの車で埋まる

 7月の朝10時。先客たちの姿は周辺にない。標高1400メートルの8合目から、すでに1984メートルの山頂を目指しているのだろう。山頂の神社では、海上の守護神とされる月読命(つきよむのみこと)が祀られる月山(がっさん)。湯殿山、羽黒山と合わせ、出羽三山と呼ばれ、修験者の山岳信仰の山として知られる。


 私の目的は登山ではない。狙いは、この8合目にある。駐車場から一段上がったところから、遊歩道が始まる。湿原に木の遊歩道が敷かれ、黄色い花が彩りを加える。好天で霧も出なかったことに感謝する。出発直後から、すでに尾瀬より気持ち良かった。トンボに顔をなでられながら、歩を進める。


月山8合目から山頂へ向かう遊歩道
月山8合目から山頂へ向かう遊歩道

 振り返れば絶景があるのは知っている。でも我慢する。足が疲れてきた。写真を撮りつつ、10分くらい歩いただろうか。左手に割と大きな沼がある。その沼を通り過ぎて、そろそろかなと振り返る。標高1500メートル近い湿原から庄内平野、果ては日本海を見渡せるパノラマが広がっていた。


月山8合目の弥陀ケ原湿原からの景色
月山8合目の弥陀ケ原湿原からの景色

 弥陀ヶ原(みだがはら)湿原という。北陸・立山にも弥陀ヶ原という同名の高原があるが、最近では山形のこちらのほうが脚光を浴びる機会が多い。まだ時期が少し早かったかもしれないが、黄色いニッコウキスゲをはじめとする高山植物が咲き乱れている様子は、天空の花畑とも呼ばれている。


弥陀ケ原湿原には沼が多くある
弥陀ケ原湿原には沼が多くある

 弥陀ヶ原湿原には池塘(ちとう)と呼ばれる沼が散見され、「いろは48沼」とも呼ばれる。この池塘に高山植物がイネのように立って生える。弥陀ヶ原は別名「御田原」。神様が田植えをした場所、という言い伝えも残るという。こんな遊歩道がぐるりと2キロほど。トンボに混ざって、ハチも元気よく飛んでいる。空気は極めて澄んでいる。ここは天空の花畑であり、天空の楽園でもある。眼下の庄内平野を下界とでも呼びたくなる。


 月山の中腹に、突如として花畑が現れる―。その昔、ふもとから頂上を目指した登山者たちはどんな気持ちでこの広々と、晴れ晴れとした「楽園」の光景を眺めたのだろうか。もしかしたら人々の月山への信仰心を高めたのは、この弥陀ヶ原湿原というオアシスの存在なのかもしれない。そんなことを思いながら、帰路は庄内平野への直線を下る。天空から海へと向かう下り坂は、実に夏らしく爽快だった。【金子真仁】


月山から庄内平野へ向かう爽快な下り坂
月山から庄内平野へ向かう爽快な下り坂

「弥陀ヶ原湿原」へ行くには?

 月山の南麓には仙台方面からの山形自動車道も走っていますが、8合目への道は北側からなので、遠回りになります。車の場合は鶴岡市街地から新庄市街地から向かう「月山ビジターセンター」(住所:山形県鶴岡市羽黒町手向字羽黒山147-5)が拠点に。そこから8合目までは一本道です。弥陀ヶ原湿原を散策するだけなら1~2時間で十分。頂上へは8合目から3時間近くかかるようです。


Wonderful View No.59 "The Marshland of Midagahara"

The Marshland of Midagahara is at the eighth stage of Mt.Gassan, Yamagata. There are many marshes in the damp plain of 1,500m above sea level, and many alpine plants (day lily, and so on) bloom. The people call the scene "a paradise in the sky".

[DATA]

Address: Kawadai, Haguro-machi, Tsuruoka-shi, Yamagata-ken

Access: Two hours drive from JR Shinjo station, yamagata-shinkansen

Two hours drive from central Tsuruoka

Parking: For 100 cars