谷瀬の吊り橋」で1本コラムを書くつもりだったものの、断念。高さ300メートル弱、長さ54メートル。怖すぎる。人が歩くたび、左右に微妙に揺れる。前方の女子3人組は体操経験者なのだろうか、橋上でV字バランスをして撮影していた。怖くないのだろうか。私は怖い。20メートル歩いて引き返し、深呼吸し、次の目的地へ。


奈良県十津川村の「谷瀬の吊り橋」
奈良県十津川村の「谷瀬の吊り橋」

奈良県十津川村は「日本一広い村」だ。面積は約672平方キロ。東西の距離も、南北の距離も、それぞれ約33キロ。琵琶湖とほぼ同じ大きさで、村全体の96%を山林が占める。谷瀬の吊り橋は村北部にある。渓流に沿って、のんびり村内を走り、目指すは村南部。十津川温泉エリアに、次なる絶景への入口がある。


狭い山道を上る。道中、バス停があった。終点ではないようだから、路線バスもこの山道を進んでいくようだ。この山の上に住宅地はあるのだろうか、バス停はあるのだろうか。「ある」と知っていて走っているのだが、それを疑いたくなるほど、運転席の先の風景に人里の気配はない。


離合困難な山道を路線バスも走る
離合困難な山道を路線バスも走る

不安になってきたが、入口から6分走ると滝があり、そこで急旋回。さらに1分上ると駐車場があった。そこから徒歩3分。バス停がある。「世界遺産石碑前」と、名前がすごい。その1メートル横に「世界遺産 熊野参詣道小辺路」と掘られた石碑がある。


「世界遺産石碑前」のバス停と石碑
「世界遺産石碑前」のバス停と石碑

平安時代から始まった熊野三山への参詣。それぞれの参詣者の出発地に応じ、3つの経路が開かされた。熊野参詣道小辺路は高野山を起点とする、72キロに及ぶ参詣道。1000メートル級の峠を三度越えねばならない、険しい参詣道とされる。その道中にあるのが、ここの集落。果無(はてなし)集落と呼ばれている。


熊野参詣道小辺路の果無集落
熊野参詣道小辺路の果無集落

集落の中央を走る熊野古道だけが平たく、あとは尾根の斜面の土地。独特な景観は「天空の郷」とも呼ばれる。春はサクラ、秋はコスモス。「咲き誇る」までとはいかずとも、ひっそりと謙虚に天空の郷に彩りを加える花々が、山里の価値を高めているようにも思える。集落には農業を営む民家がほんの数軒。バスは月曜日に上下各2本、それだけのようだ。


果無集落に彩りを加える花々
果無集落に彩りを加える花々

車で訪れた私にも、この風景の良さは存分に伝わった。参詣道をしっかりと歩いてきて、この風景を眺めたら感動の一言だろう。昔の人々は、険しい参詣道を一体どれほどの時間をかけて歩き、熊野へ向かったのだろうか。東海道徒歩走破が東京-平塚でストップして久しい私が言うのもなんだが、きっと東海道走破とは比べものにならないほど過酷な旅だったのだろう。【金子真仁】


「天空の郷」にふさわしい景観
「天空の郷」にふさわしい景観

「果無集落」へ行くには?

実際に熊野古道を歩き、登山でここを訪れる人も多いようです。集落への登山拠点となるのは十津川温泉。かなりの急斜の末、40分ほどで果無集落に着くそうです。車で訪れる場合は十津川温泉を流れる十津川にかかる赤い橋が目印。橋南側の山道を上がっていきます。十津川温泉までは、北の奈良県五條市からは2時間弱、南の和歌山県新宮市からは1時間強といったところ。温泉までのアクセスには極端に狭い道はありません。


Wonderful View No.131“The Hatenashi village”

The Hatenashi village is a remote mountain village in Nara. There are only several houses along the ridgeline root. World heritage "Kumano ancient road" goes along the village.


[DATA]

Address: Kuwahata, Totsukawa-mura, Nara-ken

Access: About two hours by car from central Gojo-shi, Nara-ken

Parking: For 5 cars