「しまなみ海道」は旅ブームもあり、すっかり有名な観光地になった。広島・尾道から愛媛・今治への瀬戸内の島々を結ぶ、第3の本州・四国横断路。特に自転車乗りにとっては「いつか走りたい」聖地のようで、外国人のサイクリストも多く見かける。ただ、車で運転するにはそこまで感動する場所ではなく、むしろ「長いなぁ」の印象。愛媛・松山から広島へ向かいたかったこの日、私は海路を選んだ。


松山観光港を出港するフェリー
松山観光港を出港するフェリー

陸路よりちょっとだけ時間がかかるものの、陸路よりちょっとだけ安い。フェリーは松山を発ち、約2時間で呉へ。さらに45分かけて、広島港に着く。もっと西へ向かいたいならば、松山から山口・周防大島(本州と橋で陸続き)へ向かうフェリーもある。地図では見えない、優雅なショートカット海路である。曇天でなければ…。


瀬戸内の島々の間をフェリーは抜けていく
瀬戸内の島々の間をフェリーは抜けていく

風が冷たい冬。デッキに出ている人はおらず、客室で一様にホットコーヒーをすすっている。島々の間を抜けていく船旅は、ビジュアルとしては割と普通。視点を高度数1000メートルに移すと、このあたりの良さがダイレクトに伝わる。羽田-熊本便はちょうど、多島美・瀬戸内の空を飛ぶ。岡山から大分まで、見飽きることのない空景が続く。


多島美・瀬戸内を上空から
多島美・瀬戸内を上空から

松山を出発し、1時間半。陸地が迫ってきた。赤い鉄橋が見える。瀬戸内の難所、音戸の瀬戸である。瀬戸、とは海峡のこと。平清盛が開削したという伝説が残り、今なお瀬戸内海有数の交通量を誇る「瀬戸内銀座」だ。本州と倉橋島を結び、幅は狭いところで80メートルしかない。フェリーは手前で急速にスピードを落とし、対向船の通過を待つ。入船角度を整えてから、徐行で海峡に進入する。


瀬戸内の難所「音戸の瀬戸」
瀬戸内の難所「音戸の瀬戸」

音戸の瀬戸の向こうには、「鉄鋼の町」「造船の町」呉の、呉らしい景色が見えてくる。このフェリー旅のハイライトといえる。


音戸の瀬戸の向こうに工場が見える
音戸の瀬戸の向こうに工場が見える

工場の圧倒的な景色を眺めながら、フェリーは呉港へ近づいていく。前方にそびえるのは、標高737メートルの灰ヶ峰。頂上から眺める景色は、以前このコラムでも紹介した美しさだ。海と山に囲まれた呉は、山から見ても美しく、海から見ても美しかった。陸地に着いてからの1時間で、色々あった。曇天だったけれど、この船旅を忘れることは絶対にないだろう。【金子真仁】


フェリーはもうすぐ呉港。奥は絶景・灰ヶ峰
フェリーはもうすぐ呉港。奥は絶景・灰ヶ峰