奄美大島に到達し、いよいよ国内未踏地が限られてきた。地図視認上での残る「大物」は、日本の西端にいた。長崎県、対馬である。…行くか。奄美に続き、格安航空券を予約した。格安航空券、バンザイ。格安航空券は正義だ。福岡へ飛んだ。


福岡空港から移動し、博多港国際ターミナルに着いた。福岡から対馬まで、海路では手段は2つ。水上を浮くように疾走する高速船ジェットフォイルで約2時間。または大型客船に揺られて、のんびり4時間40分。ほぼ中間地点に壱岐島があり、たとえば博多~壱岐・芦辺港へ大型客船で向かい、島で昼食をとりつつ芦辺港から郷ノ原港へバス移動し、壱岐・郷ノ原港から対馬はジェットフォイル…なんて選択肢も可能だ。


確かに可能だ。海が穏やかならば-。博多港でいきなり、現実を突きつけられる。「本日、時化(しけ)のため、ジェットフォイルは壱岐止まりです」。ジェットフォイルは高波が天敵なのだ。博多→壱岐→対馬で船を予約していた私は、さっそく旅程が狂った。仕方ない。最大の目的は対馬。大型客船ならば、対馬まで運行している。昼食を買い込み、4時間40分を選んだ。


大型客船で福岡港ターミナルから出航
大型客船で福岡港ターミナルから出航

間もなく乗船、出航だ。並んでいて「待てよ」とふと思う。ジェットフォイルが運行休止になるってことは、大型客船もそれなりに揺れるのか…。2等室を購入していたが、1等室に替えてもらった。ここは少々増額しても投資すべき場所だ。とはいえ個室ではない。冬の平日、乗客も多くなく、独り占めできたのはラッキーだった。


定員6名?の1等室。テレビもある
定員6名?の1等室。テレビもある

玄界灘の潮風に、鍛えし翼たくましく。ソフトバンクホークスの「いざゆけ若鷹軍団」も歌ほどではないな…。デッキに出て、写真を撮るのも楽しい。そんな穏やかな航海はしかし、出航後30分くらいから様相が変わり始める。玄界灘が徐々に力を見せ始めた。いつの間にか、波しぶきが部屋の窓にかかっている。けっこう高い場所のはずなのに。


高く飛ぶ波しぶき。写真では伝わらない揺れ
高く飛ぶ波しぶき。写真では伝わらない揺れ

とはいえ、何とか耐えられる揺れ具合。2時間少々の船旅の末、壱岐・芦辺港に着いた。本当は降りたいけれど今回は断念。停泊中の10分間、外の空気をしっかり吸っておく。間もなく訪れる「戦い」のために。


玄界灘を進み、壱岐の灯台が見えてきた
玄界灘を進み、壱岐の灯台が見えてきた

壱岐島を出てすぐ、戦いが始まった。外洋らしく、波の圧が一気に変わる。進むたび、船の頭が浮くのが分かる。上がるから下がる。どすんと船体が海面にたたきつけられる。部屋で寄りかかっていた私は、酔った。酔い止めを飲むなんて発想、完全に忘れていた。本当に気持ち悪いので、横になった。あ、これ、けっこう楽かも。「船酔い防止には寝ているのが一番」。それを知ったのは対馬到着後。とんでもない揺れ、なぜか決死の思いで船外の写真を撮る。


壱岐・芦辺港へと入る大型客船
壱岐・芦辺港へと入る大型客船

時計が進むのが遅い。残り2時間からのカウントダウンは、気が遠くなるほどの苦行だった。船は何度、海にたたきつけられたことだろう。ジェットフォイルが走るまでは、飛行機をのぞけば、この客船が博多・対馬間の唯一の交通手段だった。島に暮らす人たちの強さを、身をもって知る。


博多から130キロ超、やっと陸地が見えてきた。何とか対馬の土を踏めそうだ。対馬南部の厳原(いづはら)港。島で最も大きい街だ。どんな街だろう。船から眺める厳原は、想像以上に山に囲まれた土地だった。もうこの景色を眺めることはないだろうなと、しみじみ思う。対馬を再訪することがあっても、私は100%飛行機を選ぶ。【金子真仁】


4時間40分の末に対馬・厳原港に到着
4時間40分の末に対馬・厳原港に到着