対馬の隠れた絶景・西漕手にすっかり魅了されてしまい、半ば「燃え尽き症候群」的な感じで北へ向かう。縦長の対馬は、南の拠点・厳原(いづはら)から北の拠点・比田勝(ひたかつ)まで、車で2時間少々。島の89%が山地ということもあり、ドライブもそこそこ疲れる。ただ、途中で「もみじ街道」なんて素晴らしい道もあり、なんとか飽きずに進む。


実はかなりの絶景地、対馬のもみじ街道
実はかなりの絶景地、対馬のもみじ街道

比田勝に到着。厳原同様、ここも山が迫り、思った以上に狭い港町だ。「国際線ターミナル」の文字がなじまない。港に停泊中の船には「BUSAN」の5文字が書かれている。BUSAN=釜山(プサン)。ここから高速船を使い、韓国・釜山まで長くても1時間半。日韓関係悪化前は、大勢の韓国人が比田勝を訪れていた。ターミナル周辺は日本語より、むしろハングルが目立つ。


対馬北部の中心部・比田勝の港
対馬北部の中心部・比田勝の港

冬の平日。韓国からの観光客もいないとなると、やはり寂しい。ここでも目的の店数軒が休業しており、あわやランチ難民に。と思いきや、少し歩くと何軒かが営業していた。そのうちの1つ「かいかん食堂」は、来島前から目をつけていた店の1つだった。比田勝にあるとは。対馬名物とんちゃん定食をいただく。味も、気さくなご主人も、好感だった。


対馬名物とんちゃん定食
対馬名物とんちゃん定食

限られた対馬の時間の中で、やり残したことはあと1つ。島の北西端、棹崎公園へ向かう。対馬の北西端、ということはつまり、日本の北西端。駐車場には1台も停まっていない。貸し切りだ。来るところまで来たな。実に感慨深く、遊歩道を歩く。隣には野生生物保護センター。ほぼ確実にツシマヤマネコを拝めるが、もうそんなことは頭にない。ただひたすら、端っこに行きたい。


日本最北西端・対馬の棹島
日本最北西端・対馬の棹島

日本最北端・宗谷岬、最東端・納沙布岬をはじめ、いろいろな「端っこ」を訪れてきた。そこは厳密に言うと、端っこではなかった。宗谷からはサハリンが、納沙布からは歯舞群島が見えた。その先に数百キロ、数千キロと陸地のない「端っこ」は案外少ないかもしれない。棹崎公園もそうだった。韓国が、はっきり見える。


対馬の49・5キロ先、韓国・釜山が見える
対馬の49・5キロ先、韓国・釜山が見える

沖のタンカーの向こう側に、はっきりと韓国の山並みが見える。釜山の高層ビル群が見える。距離にしてわずか49・5キロ。スマホが韓国の電波を受信したのか、突然そんなようなメールを受信した。遠いようで近い、近いようで遠い。物理的にも精神的にも、きっとそんな関係だ。ただ、あの大陸から多くのものがこの海を渡り、日本にさまざまな影響を及ぼしてきたのは、きっと間違いないのだろう。


いろいろな思いが去来した。夏の終わりの2週間、私はアマチュア野球担当記者として向こう岸の釜山にいた。高校野球日本代表チームを、もっと言えば、大船渡高校・佐々木朗希投手を追いかけて。旅の終わり、2019年の終わり。結局行き着くところで、あの大きな高校生は私の脳裏にいる。


この対馬は、覚悟を決める1人旅だった。遠い離島から東京に戻って1週間、きっとそういう辞令が出るのだろう。高校生なのに、何度も日刊スポーツの1面を飾った。来年もきっとそうだろう。彼はどんなプロ野球生活のスタートを切るのか。ここまで来たら見届けてみよう。2020年、千葉ロッテマリーンズの取材を担当します。【金子真仁】