白壁に円すい形の屋根。おとぎ話の家のよう、と形容される建物群のある街を聞いたことがあるだろうか。イタリア南部にあるアルベロベッロという。2017年、行ってみた。

 夕日が沈もうとするころ、アルベロベッロの街に入っていく。緩やかな丘陵地帯はたぶん、畑か牧草地だろうか。さっそく、その「丸いとんがり屋根」の建物がところどころに車窓から見かけられる。この家は特別なものではなく、この地方では当たり前の家の造りのようだ。街中に着いた時は日が暮れていたが、世界遺産に登録されている家が立ち並ぶ地区の地図をもらって、夕食前に軽く散歩に出かけた。


「丸いとんがり屋根」の建物がところどころに車窓から見かけられる
「丸いとんがり屋根」の建物がところどころに車窓から見かけられる

 円すい形の屋根を持つ建物は「トゥルッリ」と呼ばれる。集まっている地区は街のメインストリートをはさんで旧市街の「リオーネ・モンティ」と「アイア・ピッコラ」の2地区。約400のトゥルッリが集まっている「アイア・ピッコラ地区」に行ってみた。街灯に照らされて白い壁が浮かび上がる。くねくねした路地を歩いていくと、右も左も、前も後ろもトゥルッリに囲まれる。住宅街なのだろうか、夜7時ごろだったがすでに静かだ。


街灯に照らされた白壁はくっきりとわかる
街灯に照らされた白壁はくっきりとわかる

 道はよくわからなかったが、トゥルッリを見ながら歩いている内に商店などがあるにぎやかな場所に出た。とんがり円屋根がいくつも連なったような大きな建物は、看板によれば「博物館」だった。そこから左に歩いていくと教会があり、展望台のようになっている。眼下に街のメインストリート、その反対側の斜面にはトゥルッリが密集している。約1000のトゥルッリがある「リモーネ・モンティ地区」。ここは、翌日にとっておくことにしてホテルに戻った。


夜7時ごろだったが、もうすでに静寂に包まれていた
夜7時ごろだったが、もうすでに静寂に包まれていた
右も左も、前も後ろもトゥルッリに囲まれる
右も左も、前も後ろもトゥルッリに囲まれる

 翌朝、まず前夜に行った「アイア・ピッコラ地区」へ。曇り空ではあったが、白壁がきれいだ。円すい形の屋根の造りもよくわかる。ガイドによると、15世紀ごろに農業で街ができ始めた。アルベロは「木」、ベッロは「美しい」という意味で、このあたりには樫の木があったという。トゥルッリは複数形で1棟は「トゥルッロ」といい、普通は何棟かをつなげて1家族のトゥルッリになる。「屋根1つに1部屋なので」とガイド。3部屋必要なら3棟のトゥルッロをつなげないといけない。大家族の場合は大変だ。


トゥルッリは複数形で1棟は「トゥルッロ」という
トゥルッリは複数形で1棟は「トゥルッロ」という
普通は何棟かをつなげて1家族のトゥルッリになる
普通は何棟かをつなげて1家族のトゥルッリになる

 なぜこんな奇妙な形になったのかは諸説あるそうだが、有力なのは17世紀にこのあたりを支配したスペインの王が、家にしっくいやモルタルを使うと税金を取るというので、それを使わずに家を建て、税金の取り立てに来た時は屋根部分の石を取り払って「家ではない」と主張したのだという。税金の取り立てを逃れて(取り立て人が)いなくなると、また屋根を積み上げた。積み下ろしのしやすい形という訳だろうか。壁は石灰と水で作られており、ガイドによれば「壁の厚さは1メートル以上。頑丈にしないと屋根が重いので崩れてしまう」。屋根に積む石は平たく割って、バランスを取りながら積み上げていく。最近では、屋根を積む職人が減っているという。雨が降る日がが少ないので修理をするまで屋根がなくても平気だったのかもしれないが、雨水を屋根から雨どいで地下の水槽に引き入れて貯める工夫もしている。


内部の構造のイラスト
内部の構造のイラスト
雨どいで地下の水槽に雨水を貯める工夫もしている
雨どいで地下の水槽に雨水を貯める工夫もしている
トゥルッリの内部
トゥルッリの内部

 前夜行った教会から「リモーネ・モンティ地区」を展望する。「甍の波」というか「とんがり円屋根の波」。今度はその地区に入った。さすがに1000軒のトゥルッリがあるだけに、どこもかしこもトゥルッリだらけだ。屋根には、ハートや太陽のような絵や、数字か文字のようなものが描かれている。


前夜行った教会から「リモーネ・モンティ地区」を展望する
前夜行った教会から「リモーネ・モンティ地区」を展望する
とんがり円屋根の波が広がっている
とんがり円屋根の波が広がっている
屋根にはハートや太陽のような絵や、数字か文字のようなものが描かれている
屋根にはハートや太陽のような絵や、数字か文字のようなものが描かれている

 「リミーネ・モンティ地区」に入ると、こちらは土産物屋やレストランなど店舗になっているものが多い。建物の中を見ることができて、屋上にも上げてくれる家や店もある。屋根に描かれた文字や絵が間近に見られる家も連なっていた。「文字や絵はその家の紋章といわれていますが、由来はよくわかっていません」とガイド。また、屋根のてっぺんには小さな塔のようなものがあり「魔よけと言われています」(ガイド)と、これもいくつかの形がある。


屋根に描かれた文字や絵が間近に見られる家も連なっていた
屋根に描かれた文字や絵が間近に見られる家も連なっていた
屋根のてっぺんには小さな塔のようなものがあり、魔よけと言われている
屋根のてっぺんには小さな塔のようなものがあり、魔よけと言われている

 緩やかな坂を上っていくと、サン・アントニオ教会に出た。屋根は、トゥルッリ型をしている。たぶん、トゥルッリで1番高い建物なのかもしれない。今はもう、屋根を壊しても税金を取られる心配はない。戻る時に「上って来たんだから、下りさえすればメインストリートに出るだろう」と、軽い気持ちで別の路地に入ってみた。周りは同じようなトゥルッリだらけ。道も曲がりくねっていて、行き止まりもある。ちょっと迷いながらもメインストリートにたどり着いた。


サン・アントニオ教会
サン・アントニオ教会
建物の中を見られて、屋上にも上げてくれる家や店もある
建物の中を見られて、屋上にも上げてくれる家や店もある
最近では屋根を積める職人が減ってきているという
最近では屋根を積める職人が減ってきているという