エロティックな彫刻が刻まれたヒンドゥー教寺院が、インドの村にある。2016年、行ってみた。タージマハルのあるアグラから列車に乗った。インド北東部から南西部のムンバイまでを結んでいる長距離列車。乗ったら、寝台車だった。「何日もかかるので、寝台のままで走るんです」とガイド。1時間遅れで乗ったのが午後4時前。昼寝にいいか。ジャンシーという駅まで約3時間。そこから車で3時間以上かけて、夜遅くにカジュラホに着いた。

 カジュラホには西、東、南の寺院群があり、行ったのは西と東。翌朝、まず「西の寺院群」へ。公園のような感じの中に、塔を持つ寺院がいくつも建っている。ガイドは「こっちです」と、左手にどんどん進んで「ラクシュマナー寺院」に。金網の塀をはさんで入場料のかからない外側にあるのが「マタンゲシュワラー寺院」で「生きている寺院で今も使われている」という。ラクシュマナー寺院は「遺跡」。基壇を上がり、裏側に回り込むように時計回りに歩き、壁面の一角を示す。「踊るガネーシャ像」というヒンデゥー教の神様のきれいな彫刻がある。

ラクシュマナー寺院
ラクシュマナー寺院
踊るガネーシャ像
踊るガネーシャ像

 さらに回り込むと、シカラと呼ばれる塔の部分に精緻な彫刻がびっしりと刻まれている。世界的にも有名な「ミトゥナ像」という男女交合の彫刻が膨大な彫刻群の中に点在している。

シカラと呼ばれる塔の部分に精緻な彫刻がびっしり
シカラと呼ばれる塔の部分に精緻な彫刻がびっしり
ミトゥナ像
ミトゥナ像

 無数のある彫刻は、ヒンドゥー教の神々、アプサラ、スラスンダリ(ともに天女)、ヴィディヤガラ(天使)などのほか、花や動物、竜や幾何学模様などさまざま。人の生活や儀式などもある。圧倒的に天女などなまめかしい女性像が多いが、一番の「売り」はミトゥナ像。ガイドも次々と教えてくれる。

とげを抜く女神
とげを抜く女神
短いサリーの女性
短いサリーの女性

 購入したガイドブックによると、9~13世紀ごろにこの地方にあった「チャンデラ王朝」時代につくられた。85の建物があったが、今は25が残っている。13世紀にイスラム勢力の支配下となり16世紀には忘れられていた。ジャングルの中にある遺跡を1838年に英国軍人のバート大尉が訪れて西洋に紹介。その際「彫刻のいくつかはわいせつで気分が悪くなる」と記録しているという。これはたぶん、動物との交合のミトゥナ像を言っているのだろう。

動物との交合を模したミトゥナもある
動物との交合を模したミトゥナもある

 ジャングルになっていただけに保存状態がいい。奇妙な彫刻は「悪魔の像」だった。「これ、面白いです」とガイド。象が4頭並んでいるが、一番右の象はよそ見をしていて、そこにミトゥナ像がある。大きく口を開けた彫刻があったので聞いてみると「雨の神ワルナで口から排水している」という。遊び心や工夫も凝らされているようだ。

4頭の象とミトゥナ。下に帯状に悪魔像がある
4頭の象とミトゥナ。下に帯状に悪魔像がある
雨の神ワルナが口から排水している排水溝
雨の神ワルナが口から排水している排水溝

 なぜこうしたミトゥナ像が多いか。「昔は人口が少なく、本当のセックスを教えるためにつくられたといわれます。今は人口が増え過ぎたので、日本に持って行ってほしい」とガイドは笑いながら説明した。ガイドブックによると、ヒンドゥー教の中の快楽をコントロールするタントリズムの中でセックスもその1つという。叙事詩カーマスートラを視覚化した、ヨーガの代わりにボーガという官能的快楽の儀式としてのセックスを描いたなどという説もあるという。ガイドは説明の根拠として「これがインドの84手図とされます」と、基壇の壁面に彫られた王の生活や戦争、庶民の生活などを表す彫刻に交じった一角を示した。

基壇84手図
基壇84手図
結婚式の様子を彫ったものも
結婚式の様子を彫ったものも

 ラクシュマナー寺院の前にある2つのお堂の1つに入る。「ヴァラーハ寺院」という。ヴァラーハは、イノシシに化身したヴィシェヌ神。大きなイノシシが鎮座している。体に表面にはびっしりと細かな彫刻が施されている。光っているので金属製かと思ったら「1つの岩を削り出しています。みんなが触るのですべすべになってしまった」という。

ヴァラーハは、イノシシに化身したヴィシエヌ神
ヴァラーハは、イノシシに化身したヴィシエヌ神

 少し歩くと、大中小3つの寺院が並んでいる。左から「カンダリヤ・マハデーヴァ寺院(大)」「シヴァ寺院(小)」「ジャガダンビ寺院(中)」。カンダリヤ・マハデーヴァ寺院の基壇を上がった。チャンデラ王朝絶頂期の11世紀半ばに完成した。高さ31メートルある最も高い寺院だ。

左から、カンダリヤマハデーヴァ寺院、シヴァ寺院、ジャガダンビ寺院
左から、カンダリヤマハデーヴァ寺院、シヴァ寺院、ジャガダンビ寺院

 ここも裏に回り込むように歩き、塔の壁面の彫刻を見る。ここは円柱が何本も重ねて立てられているような壁面をしている。「木のように見える柔らかそうな彫刻」とガイド。ここから20キロほどのところで採れるカイムールという砂岩を使っている。ちなみに「カジュラホ」はなつめやしカジュラからきている。この壁面、やはり神々や天女、女性像がびっしり刻まれており、ミトゥナ像もたくさんある。そのうちの1つで、ガイドは「タントリカ教(タントリズム)の儀式の3パターンのミトゥナです。下から始まり、興奮、終わり」と説明した。

ミトゥナ像もたくさん彫り込まれている
ミトゥナ像もたくさん彫り込まれている
タントリカ教の儀式の3パターンのミトゥナが彫られている
タントリカ教の儀式の3パターンのミトゥナが彫られている

 次にジャガダンビ寺院へ。こちらは塔や壁面に修復の跡が多い。「シヴァ、

イノシシのヴィシェヌと妻のラクシュミ、スラスンダリ、孔雀や竜などが多い」というが、やはりミトゥナ像はもれなく紹介してくれる。

ジャガダンビ寺院にある竜と天女像
ジャガダンビ寺院にある竜と天女像
ミトゥナ像はどの寺院にも必ずある
ミトゥナ像はどの寺院にも必ずある

同じ基壇の「シヴァ寺院」は小さなお堂の感じ。ライオンと戦う子供の像があるが、チャンデラ王朝創始者のチャンドラヴァルマンが16歳の時に素手でライオンを殺したという故事からきている。同じ像が基壇の一角にもある。

シヴァ寺院
シヴァ寺院
ライオンと戦う王子
ライオンと戦う王子

 基壇を降りて隣の「チトラグプタ寺院へ」。ガイドは「ここからは今まで見た寺院を模倣した建物。彫刻も同じようになっています」という。確かにジャガダンビ寺院とそっくりだ。

チトラグブタ寺院
チトラグブタ寺院

 入口(出口)に向かう道の左手に「ヴィシュナワータ寺院」。これもカンダリヤ・マハデーヴァ寺院と似ている。ただ、こちらの方が建てられたのは古いというので、彫刻類が模倣ということなのだろう。最後にこじんまりした「パールヴァティ寺院」の前を通って、約3時間で西の寺院群を1周した。

ヴィシュワナータ寺院
ヴィシュワナータ寺院
パールヴァティー寺院
パールヴァティー寺院

 入り口右手にある白い壁がある寺院は「ヒンドゥー教(左)、仏教(中)、イスラム教(右)の3宗教の建築様式を合わせている。この時代はすべての宗教を尊敬していた」とガイド。ここを見た方がいい人は今の世界にたくさんいそうだ。

3宗教の融合寺院。奥がヴィシュワナータ寺院
3宗教の融合寺院。奥がヴィシュワナータ寺院

 少し離れたところに「東の寺院群」がある。こちらはジャイナ教とヒンドゥー教の寺院がいくつか残っている。3つの寺院が固まって残る一角に行った。「パルシュワナータ」、「アディナータ」、「シャンティナータ」各寺院だ。

パルシュワナータ寺院と、アディナータ寺院(左奥)シャンティナータ寺院(右奥)
パルシュワナータ寺院と、アディナータ寺院(左奥)シャンティナータ寺院(右奥)

 パルシュワナータ寺院は11世紀中ごろにできたジャイナ教寺院。ジャイナ教はヒンドゥー教から分かれた宗教で、詳細は他に譲るが、ティルタンカーラ(聖人)を信じ、その1人のパルシュワナータを祀る。壁面はやはり無数の彫刻で飾られている。「踊り子」は生き生きとしていて今にも動きそうだ。3本の矢を持つ「カマトカラティ」は愛の神。キューピッドのようなところか。角には死神「ヤムラージ」と閻魔「カーラバイラヴ(シヴァの化身)」と強面が並んでいる。

踊り子は今にも動きそう
踊り子は今にも動きそう
死神ヤムラージ(右)とカーラベヘロ
死神ヤムラージ(右)とカーラベヘロ

 パルシュワナータ寺院の裏手にあるのがアディナータ寺院。初代の聖人アディナータを祀る。こじんまりした塔が残るが、壁面には牛の神や天女像が彫り込まれている。さらに奥の白い壁のシャンティナータ寺院は少し新しく感じた。

アディナータ寺院
アディナータ寺院

 最後に至聖所と呼ばれる入り口近くにある白い建物に入った。靴と靴下を脱いで裸足で入る。ジャイナ教出家者の禁戒の1つは無所有で、中でも裸行派は服も着ない。裸体の聖人像がたくさん置かれていたが、文字が読めずよく分からなかった。黒い聖人はたぶん「パルシュワナータ像」。この寺院群は今でもジャイナ教信者が参拝に訪れる「生きた寺院」でもあるという。

黒いパルシュワナータ像
黒いパルシュワナータ像