ハゼに始まり、ハゼに終わる。釣りの格言で、最も簡単で、最も難しい釣りがハゼという例えだ。神奈川・鶴見川では、初心者やビギナーでも船から狙える。鶴見「新明丸」が10月から乗合船を出している。ベテランは連日3ケタを記録し、絶好調だ。そこで「江戸前ハゼ復活プロジェクト」という計画に関わっているオジサンとハゼ釣り初体験の独身女子2人をマッチングさせてみた。

 水深5~7メートル。浅い。新明丸の船着き場から鶴見川を下って10分。もう釣り場だ。船で釣るハゼ。秋のこの時期は大きい個体と出会うことができる。「プルルン」どころではない、食いついて体を反り返らせて「ブルルン」。分かりやすい釣りだ。魚のアタリを感じたいのであれば、今の時期のハゼをおすすめしたい。

 そこで、ハゼ釣り初体験の独身女子2人に声を掛けた。「キャー、やってみたーい」「ハゼ、って天ぷらでしょ、天ぷら」とウキウキ、ルンルン。同じ職場の長谷川チホさんと山中マユミさんで、2年前からシロギスやアジ釣りを始めて、ハマったという。

 一緒に釣りをするのは「江戸前ハゼ復活プロジェクト」などにも関係している、日本テレビ「ザ!鉄腕!DASH!!」で、TOKIOと海岸をつくっている海洋環境専門家の木村尚(たかし)さん。「東京湾は最近驚くほど水がきれいになってるんですね。ハゼだって、きれいな水の中で生活したい。いいハゼが釣れると思いますよ」とニッコリ笑った。

 仕掛けは簡単。初心者であれば、小型のベイトリールにPE1号の道糸、市販のちょい投げハゼハリスに片天ビンとオモリ5号がセットになったものが使える。

 サオは先調子のキスザオ、3メートル前後の湖などで使うワカサギ専用ザオなど感度のよいタイプが望ましい。オモリは3~4号に付け替えるといい。新たに道具をそろえても1万円以内で決着しそうだ。

 アタリはビンビンくるものの、ハリに掛けられない。女子2人、苦戦の幕開けだ。

 長谷川さん なんか、ちょっかいは出されるけど、本気じゃない。私、エサのアオイソメを配給するだけの都合のいいオンナになっている気がする。

 山中さん これ、サオを動かさずに待っていればいいのかしら? 私はこんなの耐えられない!

 2人に挟まれた木村さんは「これはハゼ釣りだよね。何か深い人生訓が刻みこまれた会話だなぁ」と感慨深げにサオをシャクった。

 ここで釣り方が分かれた。長谷川さんはオモリを着底させて、ピタリとサオの動きを止めた。道糸は張ったままだ。ズリ…ズリ…とオモリは川底をこするように移動させる。やがてサオ先が激しく振動し、ブルルン、プルン! 長谷川さんがリールを巻き上げるとハゼ。ちゃんと口にハリが掛かっている。

 長谷川さん 待つのは慣れてます。ここでハゼのアタリぐらい待てないと。でも、動きを止めて、息も殺して、プルルンを待つのは、ややせつなくて、でも楽しいの。

 一方の山中さんは、キッ、と眉を上げて、サオを持つ左手を小刻みに上下に震わせてから、手首をひねってゆっくりと2回縦にサオ先を動かした。ちょっと動きを止めると、直後にブルン、プルルン。ハリ2本の仕掛けに一荷できた。

 山中さん 私は、もう待ちたくない。アオイソメを躍らせて誘う。動かないと何も始まらない。何かを手に入れるには、行動しかないしょ!

 攻めの山中、守りの長谷川。違う釣り方の2人が調子よくハゼを釣りあげるなか、間に挟まれた木村さんは「ペースをつかむと女性はすごいね。2人とも序盤とは別人。目の輝きが違う」とやや苦笑いだ。結局、長谷川さんが56匹、山中さんは45匹、木村さんは勢いに押されて39匹だった。

 「ハゼにもてあそばれて、力強く生きていくことを教えてもらいました。この釣り、楽しいですね」と女子2人はニコニコだった。

 ▼船 鶴見「新明丸」【電話】090・3519・1111。ハゼ釣りの乗合は午前7時45分出船、エサのアオイソメ付きで7000円。