福島の海をあなたはどう思っていますか? 13日、福島・富岡漁港の長栄丸に乗り込んでサオを出した。富岡漁港は今年7月26日に漁業活動が再開されたばかり。まだ、週3回操業だが、魚影は濃く、初心者でもアタリの感触を簡単に楽しめそうだ。釣れた魚を同行したフレンチシェフがおいしく料理してくれた。

福島第1原発からもっとも近い富岡漁港から出船した。乗ったのは長栄丸。石井宏和船長は「できればエサ釣りではない方法で釣りを楽しんでほしい。ルアーやタイラバがおすすめ。エサを使うけど一つテンヤでのマダイ釣りもやっています。数釣りは目指していない。釣れた魚1匹1匹のアタリを楽しんでもらえたらうれしい」と話した。

なぜエサ釣りではないのか?

石井船長は、長栄丸で操業して16年。東日本大震災の前から海に出ている。震災後、しばらく船を出せなかった。今では放射線物質の残留値も魚から検出されなくなった。検査は今も継続されており、どこよりも安全な魚を釣れる。漁ができなかった間に魚は増えた。遊漁の誇りとして、エサ釣りではない方法で海に対峙(たいじ)したいと石井船長は痛感しているのである。

この海域で釣れる魚は、メバル、ソイ、アイナメなどの底もの。さらに砂地などに生息するヒラメやカレイ類。青物のイナダ&ワラサ。夏ごろから乗っ込み期に入ってくるマダイ。そのほか、50センチ超のアジも釣れる。

石井船長のモットーは「釣り過ぎない」。長栄丸は1人当たり「メバル&マガレイは各10キロ、ヒラメは5匹まで」「ヒラメ50センチ未満、アイナメ25センチ未満は魚体に触れずにリリース」がルールとなっている。

そのため、コマセを使う釣りや、サビキなどの釣法は用いない。魚には、海中を浮遊しているエサは捕食するが、着底したエサは口を使わない習性がある。コマセをまくことで食われなかったエサが海底に堆積してしまうのだ。

震災で津波の被害を受けた地区の海は、第1波の引き波で海底が削られ、それまで堆積していたさまざまなものが沖まで流された。現状としては、きれいな海底が残された。現在、魚には最高の環境が広がっているのだ。エサ釣りから決別して、ルアーやタイラバ、差したエビが食べられることを想定する一つテンヤでの釣りが、環境を変えることなく、海を守り、魚を保護することに直結する。

そのため、石井船長はエサ釣りをしないことにこだわっているのだ。

ただし、今回は福島の海を知ってもらうためのプレスツアーだったので、サビキによるメバル釣りと冷凍イワシをエサにしたソイ釣りをメインにした。当然、次々に魚は釣れて、2時間でクーラーボックスは満杯になった。

さて、この魚を料理したら、どうなるのか?

釣った魚の試食会を「木戸の交民家」で行った。JR常磐線の木戸駅から徒歩10分の場所。地域のコミュニティー活性化を目的に、築70年の古民家を再生した。震災翌年の2012年に東京電力を退職した吉川彰浩さん(39)が、米や農作物を作りながら、原発災害と福島の現状を伝える活動を行っている。

交民家前の田んぼで収穫されたばかりの新米と、釣ったイナダ、ソイ、メバルを使って、フレンチシェフの宮田宏樹さん(39)が調理した。実釣もした宮田シェフは「魚が抜群にすばらしい。さばいて出た頭やホネはすべて煮込んでみた。軽く塩をして煮込んだだけで上品なスープになった。福島の魚の実力ですね」と絶賛。刺し身サラダ、ブイヤベース、ポワレ(焼きもの)2種、スープを使って土鍋で炊いたご飯、さらに土鍋でパエリア(生米を炒めてイナダの頭を含めて炊き込んだ)も完成させた。釣りの参加者も「さっきまで生きていた魚がこんなおいしい料理になるなんて」「福島の魚、味が濃い。もっといろんな人に食べてもらいたい」との声があがった。

吉川さんは「こんなにうまいんだ。収穫された米もおいしい。こういう企画やイベントは今後もできますね」と手応えをつかんでいた。【寺沢卓】

▼船 富岡「長栄丸」【電話】090・7525・2628。予約受け付けは午前8時30分~午後7時30分。料金は8000円~。出船時間は季節によって違うので、直接問い合わせを。出船は週3日で土&日曜と平日が1日。HPで予約状況が確認できる。

▼宮田宏樹(みやた・ひろき) 1980年(昭55)9月27日、群馬県沼田市生まれ。高卒後、沼田市のスーパーで働き、野菜の目利きや魚のさばきを覚える。その後、調理師免許を取得し、上京してフランス料理などの専門店でシェフとして働く。2011年に渡仏。銀座「ストック」でシェフ兼マネジャーとなる。来年3月から独立して都内で出店予定。