厚生労働省によると2017年の日本人の平均寿命は、女性87・26歳、男性81・09歳となり、いずれも過去最高を更新した。世界でも稀にみる長寿国となり、いまや100歳(百寿)を超える人も珍しくない。これからの高齢社会でカギを握るのが「予防医学」という考え方である。いち早く予防医学を提唱し、機能性食品の開発や栄養成分の利用などに詳しい早稲田大学研究院教授の矢沢一良氏に聞いた。

健康寿命を延ばして平均寿命との差を縮める

矢沢教授は大学卒業後に勤めた企業で、世界で初めて魚の腸内細菌からEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の産生菌を発見した。EPAとDHAはその優れた健康効果が認められているが、当時、腸内細菌がそうした成分を生み出すとは誰も考えていなかった。「自分にしかできないことをやる」という強い信念を持つ矢沢教授はそれ以後、腸内細菌の人体へのさまざまな影響を研究し続けている。現在は「食による予防医学」、「ヘルスフード科学」といった立場から、高齢社会における課題解決に取り組んでいる。矢沢教授は開口一番こう話す。

「人類はいまや100歳どころか120歳まで生きられることが確実になろうとしています。ひと昔前は70歳ぐらいが寿命でしたから、その頃と比べると、30年以上も寿命が延びているのです。しかし、手放しで喜んではいられません。これからはまず、〝健康寿命〟を延ばすことが重要なのです」。

平均寿命と「健康寿命」の違いはなにか。矢沢教授が続ける。「誰もが年をとっても家族やまわりに迷惑をかけたくない、いつまでも健康でいたいと願っています。元気で生き生きと過ごせる時間が長いほうがいいことには違いありません。しかし単に長生きするだけでは不十分だと〝健康寿命〟が注目されているのです。健康寿命とはつまり、介護が必要のない〝元気でいられる期間〟です。これからは平均寿命よりもむしろ健康寿命をいかに延ばすかが課題といえるでしょう」。

今年3月に公表された健康寿命は女性が74・79歳、男性が72・14歳(2016年厚生労働省による)と平均寿命との差は女性で約12歳、男性では約9歳だった。女性は死ぬまでの12年間、男性は9年間も医療や介護など誰かの世話になるわけだ。

予防医学の実践が医療費抑制に…人類救済も

「じつはこの健康寿命を延ばすことこそが〝予防医学〟の考え方なのです。健康寿命から死ぬまでの間、病気や介護を受けることで多くの費用がかかっていることがわかってきました。そのため、〝不健康な期間〟をいかに縮めるかは、社会全体の課題だというわけです。がんなどの病気を予防し、脳卒中や認知症により介護されることを予防する、ふだんから自分のことは自分でして、身も心も健やかにいこうといういわゆる健康であることが求められているのです」

従来より健康寿命の延びは平均寿命のそれと比べて小さいとの指摘がある。一方で政府の試算では医療、介護を含めた社会保障費は22年後の2040年に190兆円にまで膨らむ。「予防医学を実践することで健康寿命を延ばし、医療費抑制につながることで、人類を救済するといっても過言ではありません」。

プロフィル
松本航(まつもと・わたる)
◆矢沢一良(やざわ・かずなが)1948年(昭23)東京生まれ。京都大学工学部卒業、農学博士。東京海洋大学「食の安全と機能に関する研究プロジェクト」特任教授等を経て現在、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門研究院教授を務める。予防医学、ヘルスフード科学、脂質栄養学、海洋微生物学、食品薬理学を専門とする。