世界でも有数の高齢化社会となった現代の日本において、「予防医学」の考え方は重要なカギを握る。中でも「腸内環境」の改善は、便秘や肥満といった身近な悩みだけでなく、がんなどの命に関わる生活習慣病の予防に役立つと期待されている。いち早く予防医学を提唱し、機能性食品の開発や栄養成分の利用などに詳しい早大ヘルスフード科学部門・部門長の矢沢一良教授に聞いた。

病気になる時期を遅らせる考え方

平均寿命と健康寿命

日本は男女とも平均寿命80歳を超える、まれにみる長寿国となった。100歳を迎えることも珍しくない。医療や介護が不必要な「健康寿命」を延ばし、いつまでも元気で暮らすことが社会の命題となりつつある。「予防医学」は、そのキーワード。いわば高齢社会を乗り切る切り札だ。矢沢教授が解説する。

「予防医学とは病気になる時期を遅らせるという考え方です。果たして健康とは何でしょうか。体と心の健康があって初めて健康といえると思います。しかし、病気になる原因を取り除くには限界があります。仕事も遊びもストレスがあるからやめてしまえ、というわけにはいきません。元気な人ほど社会的な活動をし、それだけストレスがかかりやすくなります。いずれにしても人生にはプラスもあれば、マイナスもある。それを受け入れましょう。受け入れた上で病気になる時期を遅らせましょう」

100歳を過ぎても元気に暮らせれば、余計な医療費も使わずに済む。最期まで元気なままの「ぴんぴんころり」を実現するためには、薬も病院も病気になってから利用する現在の考え方を大きく変える必要があるのだ。

「薬や医療は無力。予防に力があるのは食べ物です。食べ物と運動と休養の3つがセットなら、なお頼もしい。〝腸の健康〟こそ予防医学の要です」

腸の中は実は体の外である

矢沢教授が続ける。

「ちょっと意外なことをお話すると、腸の中は実は体の外だ、ということです。食べたものが消化され血液中に吸収されて初めて体に入ったことになるのですが、これを〝体内〟だとすれば、腸の中というのは、口から胃、十二指腸、回腸などを通り、大腸、直腸、肛門へとつながる、いわば一本の管です。つまり、管の中は、体の外になるので、例えば変なものを食べても吸収されなければ、体に悪影響を及ぼすことはないのです」

一般的に体の外といえば目に見える皮膚(肌)の外をイメージするが、体を上から下へと貫く「管」の中もまた、体の外というわけだ。そのため、もしビー玉などを飲み込んだとしても、そのまま便として出てしまえば問題はない。

「ところが、腸の中には腸内細菌など全部で100兆個もの細菌があると言われています。人間の体のすべての細胞は60兆個といわれていますから、膨大な数の腸内細菌が腸の中で何もしていないわけがない。そんな疑問から私の研究は出発しているのです」

プロフィル
矢沢一良(やざわ・かずなが)
◆矢沢一良(やざわ・かずなが)1948年(昭23)東京生まれ。京大工学部卒業、農学博士。東京海洋大学「食の安全と機能に関する研究プロジェクト」特任教授等を経て現在、早大ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門・部門長を務める。予防医学、ヘルスフード科学、脂質栄養学、海洋微生物学、食品薬理学を専門とする。