皆さんはご自身の「血管年齢」をご存じですか。血管は血液の流れをスムーズにし、全身に酸素や栄養を送り届ける働きをしますが、加齢とともに老化します。近年、欧米化した食生活や生活習慣の乱れで、血管年齢が実年齢よりも大幅に高いという人が、若い世代にも増えているそうです。

 弾力を失い、硬くなった血管では血流が滞るため、冷えや腰痛、肌のトラブルなどさまざまな弊害をもたらすだけでなく、動脈硬化や心筋梗塞といった、いわゆる「血管病」のリスクが高くなってしまいます。

 血管年齢の鍵を握っているのは、血管の最も内側にある血管内皮細胞ですが、皆さんにとって一番身近な口の病気である歯周病が内皮細胞の働きを弱め、「血管病」を引き起こす要因になることは意外とまだ知られていません。

 歯ブラシや食事といった日常動作で出血が起きるのは、局所の毛細血管が破れて小さな傷ができている状態です。口の中に歯周病菌など悪さをする細菌が多いと、傷口から血流に乗り全身を巡ります。やがて、あちこちの血管内壁に柔らかい沈着物(コブ)としてたまっていきます。その結果、血管が狭くなることや、血管そのものを傷つけて柔軟性を失わせることがあり、脳卒中や心筋梗塞、動脈硬化などにつながるというわけです。

 興味深いデータがあります。2014年に広島大循環器内科学教室は、歯磨き回数が1日1回以下という不良な口腔(こうくう)衛生状態が血管内皮機能の低下に関連することを明らかにしました。この研究グループからは、高血圧や冠動脈疾患を持つ患者に対し歯周病治療を行った結果、血管内皮機能が改善したことも報告されています。口腔を健康に保つことは、全身の健康維持や病気の回復に欠かせない要素になりつつあるのです。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。