幼少期に虫歯治療で痛い思いをした! という方も多いせいか、「歯科医院は痛くなってから行くところ」というイメージを持つ患者さんは、まだまだ少なくないようです。その点で最も懸念されるのは、日本人が歯を失う原因第1位である「歯周病」に気付きにくいということです。

 全世界で最も患者数が多いとギネスブックにも認定されているこの病気は、初期の段階では明らかな自覚症状がないという特徴を持っているため、発見が遅れがちです。奥歯がぐらぐらしてきた、かめない、前歯が伸びてきて見た目が悪くなったなど、緊急性があって駆け込んできた時には、歯周病の程度が予想以上に進行しているケースが大半なのです。

 この病気の問題点は、歯自体を失うだけでなく、歯を支える骨が広範囲になくなってしまうために、その後の機能回復を目指す処置にも限界が出てしまうことです。例えば、歯が抜けたところに義歯(入れ歯)を作ったとしても、骨の凹凸があればこすれて痛くなってしまうので、うまく使えない。インプラントを入れようとしても、やせ細った骨には特殊な技術を駆使しなければならず、治療期間や費用の面で大きな負担を強いられることになりかねないのです。

 そして怖いのは、影響が口の中だけにとどまらないこと。2012年に台北医学大の研究チームが発表した報告によると、ED(勃起不全)の人とそうでない人を比較したところ、ED群では歯周病が進行している割合が約3倍高かったそうです。歯周病の影響で血管内皮細胞が傷つけられ、陰茎の血行障害を引き起こしていることが考えられます。バージャー病という、これまで原因不明とされていた手足の末端血管が詰まる病気にも、歯周病菌が関与しているというデータが出ています。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。