私たちの体には「免疫」といって、細菌やウイルスなど、そのままにしていると害を及ぼすものを排除しようとする仕組みが備わっています。免疫細胞が「活性酸素」を武器に不要な異物を取り除こうとするのですが、この活性酸素が大量に発生してしまうと、異物だけでなく正常な組織もやっつけられてしまいます。この現象を炎症と呼んでいます。

 炎症には「発赤」「熱感」「腫脹(しゅちょう=腫れ上がること)」「疼痛(とうつう)」「機能障害」といった5つの症状がありますが、いつも同じように現れるわけではありません。外敵の威力が強く、炎症が一時的に激しくなるものの、倒せば瞬時に治まるタイプを急性炎症と呼びます。細菌内部で作られ、外に放出される毒(エキソトキシン)を持つ虫歯菌は、急性炎症を起こしやすい菌です。拍動するような痛みや腫れぼったい感じはこの毒が原因といえます。

 一方、それほど強力な外敵ではないものの、なかなか治めることができずに炎症がだらだら続くタイプが慢性炎症です。細菌を構成する一部でもあり、細菌自体が壊れた時に出てくる毒(エンドトキシン)を持つ歯周病菌は、毒性が比較的弱く、じわじわと組織を破壊するため、長い期間、体にダメージを与え続けます。生活習慣病の多くはこの慢性炎症が引き起こすとされており、以前お話ししたような血管病を始めとするさまざまな疾患の引き金となります。

 虫歯菌の高い毒性で注意しなければならない病気の1つに、感染性心内膜炎があります。心臓の弁や内膜に菌が付着し感染を生じることで、心臓の働きが阻害され、死に至ることもあります。循環器系疾患を持つ患者さんには、担当医からの歯科チェック依頼状が必ず付いてくるほど重要な項目になっています。抜歯等の外科的治療で傷口ができた際に抗生物質を処方する理由には、こういった菌が血管から全身に回るリスク回避の意味もあります。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。