日々お会いする患者さんの多くは、「痛い」「欠けた」など何らかの症状を訴えて来院されます。そして皆さん口々に「昔から歯が弱くて…虫歯になりやすいのでしょうかね」などとおっしゃるのですが、実際のところ、虫歯になりやすいタイプの方などごくわずかで、ほとんどがケア不足、つまり磨き残しによるものです。

 虫歯は、歯の質、虫歯菌、食べ物という3要素が重なり合って発生します。この3つが重なる時間や面積を最小限にすれば、リスクを減らすことが可能です。朝昼晩の食事以外に3回以上、間食する習慣がある方は虫歯リスクが大幅に上がるといわれています。これは食べ物という要素が口の中に頻回に存在しているから。糖分が入った飲み物も間食に含まれるので気を付けましょう。

 乳歯や生えたての永久歯と違い、成熟したエナメル質を持つ大人の歯はちょっとやそっとでは穴は開きませんが、歯と歯の間は特に磨き残しが出やすく、2本の歯にトンネルを掘るように虫歯が深く進行しているケースが多いので要注意です。またここは、虫歯以上に大人が注意すべき歯周病の好発部位でもあります。

 セルフケアの際に意識していただきたいのは「歯には4面がある」という立体的な捉え方です。歯の表と裏だけをごしごしと一生懸命磨くのではなく、手前や奥の歯に接する左右の面もきれいにしなければ意味がありません。ここを磨くには、糸巻き状のデンタルフロスが最も適しています。歯に沿わせ、乾布摩擦のようなイメージでゆっくりと多方向から動かすことで、歯が重なっている部分だけでなく、歯と歯茎の境目や歯周ポケットの中まできちんとケアすることができます。

 フロスをマスターすることが口のトラブルを回避できる一番の近道ですから、ぜひチャレンジしてみて下さい。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。