小さなお子さんを持つ患者さんや保母さんなどから時折受けるのが、「かまない」「かめない」「うまくのみ込めない」子供の相談です。こういった子供の咀嚼(そしゃく)に関する問題は20年以上前から指摘されていて、年齢別のかみ方を調べた厚生労働省のデータでも、1~2歳児では「かんでものみ込めず、口にためたり口から出してしまう」「よくかまずに丸のみする」子供の割合が高いことや、4歳児でもそれぞれ1割程度認められることが報告されています。

実際に給食時に繊維質の多い野菜などを吐き出してしまう子供は一定数見られるそうで、顎や口の正常な発育を促す「よくかんで食べる機能」が果たされなくなっているのは社会問題だ、と指摘する研究者も少なくありません。飽食の時代と呼ばれて久しい現代ですが、ハンバーグ、ラーメン、オムレツなど、子供が好む食事はしっかりと味がついて、軟らかいものばかりです。

知らず知らずのうちにこういった食品を好んでいると、顎や周りの筋肉が十分発育せず、永久歯が生えそろう段階で、歯並びやかみ合わせが乱れてしまいます。また、虫歯は少なくなったといわれるものの、逆にかつてあまり見られなかった歯茎の腫れ(歯肉炎)などが目立つようになっています。

食べ物はしっかりかむと、その食材そのものの味がよく出てきます。子供の場合は大人よりも味覚が敏感なので、薄味でも満足感が得られて、おいしく食べられるはずです。しかし、かまずにのみ込む生活をしていると、味覚が発達しないまま調味料の味に慣れてしまい、自然と濃い味付けを好むようになります。弾力のある食材を大きめに切って調理する、かみ応えのあるおやつを渡すなど、普段の食生活の改善がお子さんのトレーニングになりますから、ぜひ実践してみてください。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。