最近は大人になってから歯列矯正にチャレンジする方が増えてきています。10~20代の若い世代が見た目を気にして治療を考えるのに対し、30代以上の方は「これ以上虫歯や歯周病が進行しないように、歯並びを整えたいです」と機能面でのメリットを十分理解した上で歯科医院を訪れる方が多いのが特徴です。

歯が重なっていてケアが行き届かずひどい虫歯になったり、かみ合わせのアンバランスで特定の歯がダメージを受ける危険性などは、自覚症状が現れるまではなかなか気付きにくいものです。そういった経験をされた親御さんからは、お子さんの歯並びに関する相談も多く寄せられます。

歯並びは、生まれ持った歯や顎の大きさによる影響もあるため、遺伝的要因によるところもあります。例えばご両親のどちらかが受け口(反対咬合=こうごう)ならば、お子さんもそうなる可能性があります。まだ奥歯が生えてきていない小さいお子さんの場合、顎を前に出す癖もありますし、最近の研究では、舌を上にあげる動きが上手でないと、受け口につながる場合もあるそうです。乳歯が生えそろう3歳ごろまで様子を見て、自然に改善しないようなら、1度専門医に診てもらってください。

歯並びやかみ合わせが乱れる理由はほかにもあります。乳歯を虫歯などで早く失ってしまい、永久歯が順序通りに並ばなかった場合や、歯と顎の骨の大きさのバランスが悪く、永久歯の生える場所がないケースです。前回お話ししたように、しっかりかまない、または硬いものを食べないことにより、顎が十分発達しなかった弊害もあります。おしゃぶり、指しゃぶりだけでなく、舌を前の方に出す癖や口呼吸、頬づえ、うつぶせ寝などの生活習慣も関係します。

永久歯の歯並びが悪くならないように、乳歯の時期から簡単な装置を利用した方がよい場合もあります。最良のタイミングで治療ができるように、定期的に経過をみていくと安心です。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。