がん治療中の合併症として見られる口腔(こうくう)粘膜炎は、口唇の裏や頬粘膜、歯肉や軟口蓋(なんこうがい=口の上側の後方部)、舌の側面から表裏にかけてなど、広範囲に発症するのが特徴です。栄養をしっかり補給したくとも思うように食事ができなくなったり、痛みにより予定された抗がん剤治療を中断せざるを得ないこともあります。

残念ながら現代医学では、粘膜炎を予防する方法は見つかっていません。しかし、適切な対処をすることで確実に症状を緩和することができます。ポイントは「口の中の清潔を保つこと」と「保湿」です。ヘッドの小さい歯ブラシやタフトブラシ(1本磨き専用に設計された小さな歯ブラシ)を選択し、粘膜になるべく触れないように歯だけをきちんと磨きましょう。

毛の硬さは指で触れて確認し、極力軟らかいものを選んでください。歯間や歯の際にはフロスを入れてゆっくり動かすこと。歯磨剤は使用しなくても大丈夫ですが、滑りの良いジェル状のものだと安心です。

口の中を常時保湿する方法として、市販の保湿剤や生理食塩水を使用しての含嗽(がんそう=うがい)が推奨されています。生理食塩水は1リットルの水に9グラム(小さじ2杯弱)の食塩を入れて作り置きが可能です。ゴロゴロうがいでは口の中が潤わないので、グチュグチュうがいを心掛け、1日8回を目安に行ってください。粘膜炎の症状が強い場合は、食事の20~30分前に鎮痛剤を服用することで痛みをコントロールし、食べる直前に含嗽をしっかり行い、口の中を湿らせた状態で食事を始めるといったプログラムも考案されています。

骨髄抑制という副作用があるため、がん治療中は細菌に対する体の免疫力が著しく低下します。虫歯や歯周病の悪化により大切な歯を失うことがないよう、米国では治療開始2週間前には歯科を受診するという指導が一般的になっています。我が国でもその流れが徐々に広まりつつあります。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。