うつ病の陰で診断されにくい「社交不安症(社会不安障害)」。大学生のBさんは、飲食店でアルバイトとして働いていた。ある日、店長に用事で休んだほかのスタッフに代わって勤務してほしいと頼まれた。Bさんは大学の授業やゼミの発表が控えていたのに、その依頼を断れず、引き受けてしまった。本当は嫌だけど、店長の機嫌を損ねたくない、との思いを抱えたまま、大学とアルバイトに明け暮れ、寝る間を惜しんで頑張った。

しかし3週間後、心身の疲れはピークに達し、肝心のゼミの発表で失敗をした。準備ができなかったのである。アルバイトも休めず、結局、すべてやる気を失い、動けなくなってしまった。心配した家族にメンタルクリニックへ連れていかれ、「社交不安症」だと診断された。

「なんば・ながたメンタルクリニック」の永田利彦院長はこう話す。

「Bさんは、店長が困っているのをわかっているので、つい無理な依頼を受け入れてしまいました。目上の人には緊張してしまうので、自分の意見を言えないのです。また後輩や周囲に嫌われたくないので、好かれるように頑張ってしまった。そのため無理がたたってしまう」

社交不安症は見過ごされているといわれている。理由は本人が性格の問題だと考えているためや、わがまま、あるいは周囲がそれに気づけないことなどがある。

「社交不安症は、脳内の神経の働きなどが一因。適切な治療で改善します。単なる性格の問題とあきらめないで」(永田院長)

多くは、他人と接する際、相手の表情に対する反応が過敏になっているといわれている。改善には精神療法と薬の服用が効果的だ。

「症状が改善すると、人前で自分の意見を話すなどそれまで避けてきた場面でも落ち着いて対処できるようになる。不安に対する経験を積み重ねることで自分に自信が持てるようになると、その人らしい生活が送れるようになるのです」(永田院長)

遠慮して意見が言えない、周りに気を使いすぎる、相手の意見に異を唱えにくい、グループの輪に入れないといった人は要注意だ。