うつ病になると判断力が落ちミスが多くなる。「うつが治る食べ方、考え方、すごし方」(CCCメディアハウス)の著者で「新宿OP廣瀬クリニック」の廣瀬久益(ひさよし)理事長はこう話す。「注意力が落ちる。脳内のワーキングメモリーが障害され、記憶が落ちてくるのです」。

廣瀬理事長によると、ストレスがかかることでコルチゾールというホルモン物質が分泌される。コルチゾールは、炎症を抑えるなどの防御作用で体を守ってくれる半面、増えすぎると神経細胞の毒となり、障害となる。

「脳の海馬という記憶にかかわるところは、不安や気分を保つところに影響を及ぼす。そのため慢性ストレスの状態により、不安が大きくなることでうつ気分となり、記憶も落ちる。うつ病のほとんどは記憶力が落ち、人に言われたことが残っていないのです」

記憶が落ちてきたということは、脳にダメージが出始めている証拠である。ほかにも脳の前頭前野と呼ばれる、注意や情報処理にかかわる部分が低下し、結果として仕事ができない状態に陥るというわけだ。

「物忘れがひどいという症状は一般的にも分かりやすい。うつの実態としては、ミスが増えた、疲れやすい、朝の目覚めが悪い、といったことになると思います」

廣瀬理事長は、ネットの動画サイト「ユーチューブ」でこうした情報を発信し、動画はすでに180本を超えた。廣瀬理事長はこう警鐘を鳴らす。

「考え方や生き方、そして社会のあり方というものが、うつ病を始めとするメンタルヘルスを脅かしているということに気づいてほしいと思っています。そもそもうつ病の患者さんたちは、競争社会の中で生きてきた人がほとんど。誰もがなりうる可能性があるのです」

患者の多くは「素直な人」たちだという。うつ病は社会全体の問題としてとらえることで、その治りにくい実態に迫ることになり、より良い治療につながると提言している。そうした視点は、うつ病が単なる個人の問題にとどまらないことへの理解につながるはずだ。