昔から「過ぎたるは及ばざるがごとし」、何事も適度な量が良いと言われる。われわれの体にも「適度」と「過剰」のバランスによって保たれている機能が数多くある。その1つが「運動」。激しすぎる運動は体内に活性酸素を増やしてしまい、筋肉などの疲労の一因になる。

▼活性酸素は本来、同じく体内で合成される抗酸化酵素などの「抗酸化力」によって抑制されている。このバランスが崩れ、酸化に偏って体に有害な作用を及ぼす状態が「酸化ストレス状態」である。「活性酸素」と「抗酸化力」は、いわば免疫機能のシーソーのようなものだが、それを支える重要な要素が「Nrf2」という物質であることが、東北大学の山本雅之先生らの研究で明らかになった。

「Nrf2」は細胞内で抗酸化物質などの合成を促す物質。運動などによって体内が酸化ストレスにさらされると初めて発現するが、この運動は初めにも述べた通り「適度」である必要がある。近年の研究では、なんと「Nrf2」は過剰な酸化ストレスでは発現せず、マイルドな酸化ストレスでこそさまざまな「抗酸化力」を高めることが分かったからだ。つまり適度な運動こそが「Nrf2」を活性化させ、免疫のバランスを保つ助けとなるのである。

▼東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利先生の研究によれば、「1日4000歩/中強度運動5分」を続けると、うつ病の発症率が10分の1になるという。「1日8000歩/中強度運動20分」だと認知症や脳卒中の予防にも効果があるそうだ。

中強度の運動は、会話ができる程度の速歩きや階段の上り下り、風呂掃除や床掃除などでも可能だ。私もエスカレーターを使わず階段を駆け上がるなど、普段の生活の中でも心臓の鼓動が聞こえ、血流が促進されているのを実感できる程度の運動を行うよう心掛けている。じんわり汗をかくくらいの適度な運動で自分の体の免疫バランスが保てるのなら、ぜひ積極的に行っていきたいものだ。