今までこのコラムでは、ストレスオフや人の健康にとっていかに休養や適度な運動が重要かについて紹介してきた。今日は「気体」について。そもそも人の最も重要な生体活動は酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す「呼吸」であり、そのために空気中の酸素が欠かせないことは周知の事実。しかし酸素以外にも人体に貢献している気体がある。その1つが「一酸化窒素(化学式NO)」だ。空気中にも存在するが、実は体内、血管の内側でも生成されている。

▼一酸化窒素、と聞くと排ガスに多く含まれるため、あまりいい印象はないかもしれない。濃度が濃くなると大気汚染、酸性雨などの環境汚染の原因にもなる。しかし逆に、その濃度やどういう環境で作用するかが研究された結果、人体に有用であることもはっきりと解明されていて、1998年にはその研究者にノーベル医学・生理学賞がおくられるきっかけとなった成分でもあるのだ。

▼NOには血管を拡張し、血流を促進する作用をはじめ、血管の筋肉を柔軟に保つ働きや、血栓の発生を抑える働きなど、多くの作用がある。例えば、狭心症の薬として有名な「ニトログリセリン」も、実は体内で反応して生成されるのはNO。血流を回復する作用により、発作を抑えるという仕組みだ。最近では男性機能障害に役立つ医薬品にもNOが関連しているし、スポーツなどに用いられるサプリメントでもNOを生産する「アルギニン」や「シトルリン」は人気だ。最近の研究で興味深いのは、NOがコラーゲンの生成を促進するというもの。コラーゲンは皮膚をはじめ、さまざまな部位で弾力線維として働いているが、加齢とともに減少し、しわやたるみなどの原因にもなる。そのコラーゲンを生成する線維芽細胞をNOが活性化することが近年の研究で明らかにされ、医薬のみならず美容にとっても重要な物質だということが分かってきた。

悪印象しか持たれてこなかったNOは、実は大変有用な物質なのである。その点が広く知られることで応用となる臨床、つまりは画期的な医薬品の開発や健康長寿のための健康法の研究が進むことを願っている。