私が禁酒したというと誰もが驚く。それほど「酒は百薬の長」を標ぼうし、休肝日がないほどにお酒を愛してきた。仕事のあとの1杯、草野球のあとの1杯、何かを成し遂げた後の最高のひと時であった。また、仲間とお酒を飲みながら語りつくすこともこの上ない楽しみで、円滑なコミュニケーションには欠かせないと思っていたのだ。

▼そんな私に転機が訪れた。ある大学教授らとの会合で、某先生から今日はアルコール抜きで会食を、との提案がなされたのだ。正直「え!」と思った一方、この会合における先生方の真剣な意思を感じた。3時間ほどの間ずっとノンアルコールビールをたしなんだ結果、とても有意義な会合となり、それが起点となってプロジェクトの実現につながった。「しらふ」でじっくり話し込んだ成果だ。

▼さらにもう1つきっかけとなったのは、仕事と子育てを両立しようと決意した結果、限界を感じたこと。ただでさえ休みのないハードワークに追われる毎日、しかし仕事は山積みで、ボリュームも質も下げられない。一方、私の座右の銘は「家族を大事にできない者は男でない」という映画「ゴッドファーザー」でのセリフであり、それを犠牲にするつもりは毛頭なかった。睡眠時間を削るのは愚の骨頂だし…と、あれこれと優先順位を考え抜いた結果、削れる時間は晩酌の時間だったのだ。

▼これが起点となり、3年前の正月から禁酒を開始してとても理想的な時間管理ができるようになった。飲酒をすることで削られていた時間を家族とのだんらんなどに充てることができている。飲み会で「お酒飲めないの?」と失望させてしまうのは少し心苦しいが、代わりに誘いには積極的に参加し、酔わずに場を楽しむようにしている。近年のノンアルコール飲料の味が向上したことも一役買っていて、飲み会に参加しながらも、ストレスオフに参加者とコミュニケーションをとることができている。最近ではおいしいノンアルコール飲料を探すことも専らの楽しみだ。知人の多くもノンアルコール飲料で休肝日をつくっているし、飲酒の雰囲気を楽しみたい時には大変重宝している。自分にとっての最優先事項を考えたら、禁酒も悪くない。