トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

  ◇   ◇   ◇  

約1カ月で寛解達成となると、喜ぶ間もなくだいたい「地固め療法」が開始されます。少年マンガでよくある、敵を倒した時に真の強力な敵が現れる、あの展開です。実はこの地固め療法が、骨髄性白血病治療の要とされています。

染色体や遺伝子の解析もそろっており、治療の選択肢が得られます。状態から、強力なシタラビン(抗がん剤)注射による「大量キロサイド療法」が行える方なら、化学療法だけで治癒が期待できます。逆に、遺伝子の型などがあまりよくないタイプと判明すれば、通常強度の治療を行い、骨髄移植などを検討する流れになります。

骨髄移植が適応かどうかは、細かい基準によって決まります。骨髄移植は、治療成績も上がり治癒を目指すことができる治療ですが、人間の骨髄を取り換えるということは、並大抵のことではありません。さらに、自分の中に自分でない血液細胞が流れるということは、免疫的な異常状態です。免疫は、かなり医学的に制御されるようになりましたが、医学が把握している免疫の仕組みは、ごく一部です。

ドラマでは「成功率10%の治療」でも、大逆転な展開はあるかもしれませんが、現場では「成功率50%」でも、半分の方が不幸な結果となります。医師にとって「移植すべきか、どうか」を見極めるのは難しいことですが、患者さんにとって、「ためになる」提案を一緒に考えるのは重要だと思っています。

さて、通常で3~4回の地固め療法という規定の治療が終わると、経過観察が行われます。治療後1年以内に再発がなければ、だいたい大丈夫だと思っています。それでも、数年間お付き合いいただくことが多いです。統計的には半数近くの方が、再発されています。「もう1回、治療をやり直す」「今度こそ骨髄移植に話を持っていく」「高齢や体力的問題により支持療法で生活の質を保つ」…。それは、患者さんのことをよく知っている先生と相談して決めるのが、一番です。

18年に、遺伝子異常の一種「FLT3-ITD」変異がある方に効果が期待できる内服薬が、発売されました。再発時に、この変異が認められた患者さんには、福音と思います。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。