トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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昨今では遺伝子解析がなされ、特定的な「キメラ遺伝子(白血病発症の原因の1つ)変異」が見つかれば、治療のたびにキメラ遺伝子が減っている、もしくは検出されなければ、治療継続。遺伝子変異が検出もしくは増大すれば、治療変更(可能なら骨髄移植)となります。

遺伝子の検出レベルは、普通の採血ではわからないレベルで、特に症状もありません。無事に「地固め療法」(約半年)が終われば、そのあとは「維持療法」(約1年)を行う、という流れです。そこまで落ち着けば、まだ心配は残るものの、だいたい大丈夫だと思います。

しかし、急性リンパ性白血病は、ぶり返した時には本当に難渋します。もちろん再発治療すると、ある程度反応するケースは多いのですが、例の「ダブルノックダウン作戦」(白血球が増えた時、正常な白血球によるものか、白血病が立ち上がったことによるものか見極める)では、何と、立ち上がるのは「悪役」(白血病)の方なのです。リンパ球は増殖スピードが最高クラスの細胞のため、その腫瘍化したリンパ性白血病は、たちが悪いのです。

リンパ球だけを倒す方法-。それはリンパ球が持っているものを攻撃するほかにない、ということで「特異抗体療法」が開発されました。成熟した「Bリンパ球」(白血球中のリンパ球の1つ)に発現している「CD20」(白血球の細胞表面の分子に結合する抗体の分類)に対する抗体は、悪性リンパ腫において成功を収めましたが、多くの急性リンパ性白血病は未成熟型です。他の抗体分類に当たる「CD19」や「CD22」に対する抗体は、単独では効果がいまひとつでしたが、抗がん剤成分と結合することや、別のリンパ球に対する抗体とつなげるうえで効果を上げて、発売されています。

しかし、これらの抗体療法の効果も一時的で、最終的には骨髄移植に頼らざるを得ない患者さんが多いです。持病や年齢などにより、移植を勧められない場合もあります。

そんな状況下で、「CAR-T療法」という治療が開発されました。抗体を最初からTリンパ球につけて対象の細胞に食らいつく機序(メカニズム)です。「CD19」に対して反応するそれが、最近脚光を浴びる「キムリア」です。治療の管理は相当大変で、簡単にできる治療ではないようですが、若い患者さんには、朗報でしょう。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。