トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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「慢性骨髄性白血病」は、骨髄の中の造血幹細胞が遺伝子融合により、増殖能力が増して引き起こされる病気です。その遺伝子融合はBCRとABLという遺伝子の融合によって起きます。9番染色体と22番染色体の一部がくっついてできます。その切れ端は「フィラデルフィア染色体」と呼ばれ、頑張れば顕微鏡で見られます。がんにおいて、最初に確認できた染色体異常とされています。

頻度は新規の年間発症者数が1200~1600人程度です。現在は1万4000~1万6000人の患者さんがいると推定されます。

骨髄細胞の増殖のスイッチがずっと入りっぱなしのため、骨髄は細胞がぎっしり詰まった状態になります。本来は、骨髄の造血は非常に細やかな制御が行われていますが、それがないため白血球と血小板は、多くは増加しています。赤血球は材料不足か、骨髄内の「場所」が不足するため、やや貧血の傾向が出ます。

症状としては疲れやすさが出ます。脾臓(ひぞう)の腫れによるおなかの“つかえ感”も見られます。

しかし、慢性骨髄性白血病の細胞自体の異常は、その程度です。白血球は10日ほどの寿命で壊れてなくなってしまいます。代謝物である尿酸が増えて痛風発作で見つかるケースもあります。白血球増加症で骨髄検査、染色体解析で診断します。

慢性骨髄性白血病はかつては「不治の病」の代表でした。細胞増殖を抑制するインターフェロンα注射が導入されましたが、10~20%程度の方にしか治療効果がなく、それ以外の人は、条件が整えば骨髄移植か、抗がん剤の「ヒドロキシカルバミド」内服による白血球数減少療法を行って、経過観察となります。ヒドロキシカルバミドの内服を継続していても白血球は徐々に増加し、抗がん剤点滴療法を行うも、多くの方が数年ほどで亡くなるという流れでした。

しかし、01年、がんの原因となる酵素、チロシンキナーゼの阻害薬である分子標的薬系(がん細胞を増殖する特定分子だけを狙い撃ちする)の抗がん剤「イマチニブ」の登場により、治療の流れは劇的に変わるのです。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。