トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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患者さんを、「慢性骨髄性白血病」と診断したら、チロシンキナーゼ(がんの原因となる酵素)の阻害剤を飲んでもらうと、8割以上の方に効果があり、落ち着くという状況になりました。

01年登場の、最初のチロシンキナーゼ阻害薬「イマチニブ」では、副作用などで継続できない方や、抵抗性の遺伝子変異で最終的には6~7割の方しか継続できない状況でしたが、今までの数年で亡くなってしまう状況からは大いなる改善がありました。

09年に「第2世代」と呼ばれる「ニロチニブ」と「ダサチニブ」(ともに抗がん剤)が登場すると、かなりの範囲の患者さんをカバーできる状況になりました。その後、長期的な副作用が比較的軽いとされている「ボスチニブ」が登場し、さらに各種チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性を持つ「T315I」なる遺伝子変異にも有効な「ポナチニブ」という薬が登場し、対応可能となりました。

以前は全体で7000人程度だった患者数も、01年以降徐々に増加して1万4000人程度になっています。慢性骨髄性白血病におけるチロシンキナーゼ阻害薬の治療は、分子標的薬(がん細胞を増殖する特定分子だけを狙い撃ちする)の最大の成功とされています。

問題は、薬価です。1錠数千円する薬を複数個飲むので、だいたい月40万~50万円(もちろん自己負担は1~3割)かかります。ざっとですが、年間500億円が、約1万4000人に使われているのです。日本では高額療養費制度がありますが、それでも個人負担は大きいです。

現時点では、この薬の内服をやめるという、明確な基準はありません。STOP試験(寛解)という幾つかの基準が挙げられていますが、「やめられそうで、何となくやめられない」という感じです。

また、別の問題点は、長期内服による合併症(脳梗塞や心筋梗塞など)への対応です。行う検査が心電図やMRI(磁気共鳴画像)、心エコー(超音波による心臓検査)など、血液内科の範囲ではなくなっています。今後も治療中の慢性骨髄性白血病の患者さんが徐々に増えて行く流れです。さらなる治療法が検討されていますが、ここまで成功した治療の次は、なかなか開発が難しいようです。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。