トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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「成人T細胞性白血病」は、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)というウイルスが発症に関与します。レトロウイルスという細胞の遺伝子の中に組み込まれる形で、増えるウイルスです。AIDS(エイズ)の原因ウイルスと認識されているHIVも、当初はHTLV-3(同3型)と呼ばれていたこともあります。

HTLV-1に関しては、縄文時代の日本人はほぼ100%、感染していたと考えられます。主に家族間で感染しますが、弥生人の中国大陸からの渡来により、密度が薄まり、現在では南九州と四国にやや密度が高く見られる程度です。また母乳を介して感染するため、陽性者の母乳栄養を禁止することにより、感染者は減少してきています。

HTLV-1陽性者で、生涯で白血病を発症するのは数%です。感染してから発症までは30年以上かかると考えられています。

「くすぶり型」と呼ばれるタイプの方を除いて、発症すると生命的危機が高く、抗がん剤治療に臨まなければなりません。しかし、治療効果は非常に良くないです。かなり濃密な抗がん剤治療を行うと、一部治る人がいるとのことですが、発症者も高齢の場合が多く、治療の完遂が困難です。可能な人は骨髄移植が望ましいとされていますが、提供者の兄弟も感染者だったり、年齢も高かったりするため難治性の代表格です。

分子標的薬(がん細胞を増殖する特定分子だけを狙い撃ちにする)の「抗CCR4抗体」によって、治療効果が高められるとのことです。抗体療法は、ある程度高齢者にも受け入れられる治療です。今後の進捗(しんちょく)が期待されるところです。

各種対応によりHTLV-1感染者が減っていることもあり、成人T細胞性白血病は近い将来、なくなる病気と予測されています。犬や猫や牛の白血病は、多くはウイルスに関与したものとのことです。人間の遺伝子の中には、眠っているレトロウイルスが数百種類あるそうです。もしかしたら、これらのウイルスが目覚めることで、何らかの悪性疾患や免疫疾患が動いているかもしれません。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。