トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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十分な情報提供と説明による理解の上での同意を「インフォームドコンセント」と言います。化学療法や手術などの治療を始めるときのみならず、検査のときにも必要とされています。

白血病治療のときに、もちろん行いますが、医師にも理解してもらえない病気を、どこまで患者さんと家族に理解してもらえるか? そして緊急事態で果たしてどれだけ説明の時間を確保できるか、なかなか難しいのです。

慢性白血病では、少し余裕がありますし、最初に使う治療のチロシンキナーゼ阻害剤を3つ(イマニチブ、ニロチニブ、ダサチニブ)の中から選ぶなどの選択肢はあります。患者さんによく「お任せします」と言われる場合もありますが、これは「わかりません」と言っているのと同じ、と先輩から教わりました。「お任せは、すし屋さんだけにしましょうね」と話を続け、治療を決定します。

急性白血病になると、時間的に余裕がないことが多いです。また急性白血病治療において、自由な選択肢は、ほぼないのです。適応や治療の決まり(プロトコール)などで、使える薬剤もほぼ決まっています。結局、病気と治療と生命予後の説明だけで書類にサインをもらって治療開始になる印象です。

ただし、イギリスの医師の研究だったと思いますが、医師から患者への説明内容は3分の1しか正しく理解されず、3分の1は全く理解されず、3分の1は正反対に理解されているとのことです。ただ単に説明するだけでは、理解は得られません。

かなり遠方から、わたしの外来に来た血液難病の女性がいましたが、「医師からの説明がないまま、治療されている」との相談でした。驚いて話を聞くと、インフォームドコンセント(30分にわたる)は受けているが、「説明はされていない」と言うのです。治療内容は妥当であることを説明し、途中からはご当地名産品などの話題になってしまいましたが、満足されて帰られました。診療の際、かき集めた情報と飽きさせない世間話で、患者さんにいかにリラックスしていただくか-。最近、ことに腐心しています。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。