トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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殺細胞性治療は、いわゆる「従来型化学療法」です。世間一般的な「抗がん剤」とほぼ同じイメージでいいでしょう。白血病においてはこの殺細胞治療は現在も主流な治療です。そもそも白血病はこの治療が最も成功した病気の1つです。

「サイトトキシック」という英語から来るのですが、直訳の細胞毒性ではなくて「殺」の字が使われます。細胞に対する毒を使って、良い細胞も悪い細胞も両方壊してしまう。良い細胞の方が生き残るかな、という治療です。そのため、本人が耐えられる極限の量まで使うことが治癒に結びつくと考えられています。

薬の仕組みから、増殖が盛んなところがやられます。髪の毛母細胞から脱毛になり、胃の粘膜細胞から胃炎、胃潰瘍になり、骨髄から白血球減少貧血などが起こります。そして、多くの薬に吐き気があり、また機序的に活性酸素(フリーラジカル)を作るので口内炎を起こします。最近は吐き気止めなどの支持療法と呼ばれる患者さんの副作用対処が進歩し、悩む患者さんは減りましたが、治療中はいろいろと合併症が多くなります。

仕組みからして遺伝子を傷つけますので、以前にも述べた通り将来的な発がんにもつながります。妊娠中の患者さんはもちろん、今後妊娠の可能性のある女性の方々への使用は、もちろん少しでも触れることを避ける対応が求められます。このため、治療担当看護師は手袋マスク、ゴーグルやガウンを着けての完全防備で対応しています。

分子標的治療(がん細胞に特有の分子を狙い撃ちする)や抗体治療の登場により、「がん」治療ではこの殺細胞治療をなるべくなくす流れです。わたしも若い頃は「(殺細胞治療薬なんて)なくなってしまえ」と思っていました。

でも、白血病の患者さんやリンパ腫の患者さんで、各種治療が効かず、半ば覚悟の上で在宅治療として少量内服治療を始めたら、ある程度改善が得られる患者さんがいます。最近の研究では少量で使えば、この手の薬は免疫調整的に働くとのことです。わたし自身「がん」のみならず「薬」のことも、まだすべて分かっているわけではないと、改めて感じたしだいです。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。