トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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抗体療法を含む免疫療法は今、最もホットな領域です。B細胞リンパ球のCD20抗原に対する「リツキシマブ」や乳がんにおけるHER2タンパクに対する「トラスツズマブ」は最も成功している抗体療法です。白血病においては骨髄球が持つCD33と、Bリンパ球が持つCD22は結合すると細胞の中に入ってしまい、抗体単独ではあまり効果が得られませんでした。

しかし、その中に入り込む性質を利用して抗体に抗がん剤「カリケアマイシン」をくっつけて選択的に細胞をやっつける仕組みにしました。CD33用が「ゲムツズマブオゾガマイシン」でCD22用が「イノツズマブオゾガマイシン」です。

抗体療法は比較的選択的に標的のがん細胞を攻撃し、効果も速やかに発現します。ただアレルギーの機序(仕組み)を用いて治療効果を発揮しますので、「インフュージョンリアクション」と呼ばれる急性アレルギー反応に対する注意が必要です。

抗体療法は野球の投手でいうと、落とせない試合での中継ぎ=セットアッパーでしょうか? 何人かは先発陣に入っていますが、いずれにしても立ち上がりの制球の乱れが勝負を分けます。

さてキムリアを始めとした「CAR-T療法」が開発され、臨床応用されています。これは、患者のリンパ球を取り出して遺伝子導入して特定の細胞(キムリアはCD19)に対する抗体構造を細胞表面に出させ、活性したリンパ球細胞が特定の細胞を破壊する仕組みです。映画の「ロボコップ」みたいに、元警察官をロボット改造して事件を解決させる手法です。ただリンパ性白血病は非常に手ごわいので、1人のロボコップでは手に負えず、増殖能を与える必要がありました。「がんをもってがんを制す」です。当然増殖能を持った細胞はあまり制御が効かないようで、映画のデトロイトの街のように現場は火の海になります。厳重な治療の管理が必要となります。

抗体の治療は、白血病やリンパ腫の病名ではなく、その腫瘍細胞が発現しているタンパクに依存します。適応があるかどうか、は主治医に相談ください。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。