トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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日本赤十字社による輸血システムが、日本の白血病治療を最も支えたといっても過言ではありません。ここまでも、これからも、新薬は開発されていますが、基本の抗がん剤治療はここ20年ぐらいはあまり変化していません。にもかかわらず、治療成績が向上したのは輸血をはじめとする支持療法の発達によると思います。

まず輸血ですが、非常に効率的なシステムを日本赤十字社が提供してくれています。特に血小板は献血してから数日しか保存できません。それを全国カバーして過不足なく供給するのは素晴らしいの一言です。日本では輸血を依頼すれば、当日にはほぼ輸血できます。これを当たり前としていますが、よく考えればすごく恵まれた環境といえます。もちろんみなさんの善意で献血があって支えられるシステムです。

支持療法としては、制吐剤、腫瘍崩壊症候群対応、点滴栄養法、口腔内ケアの徹底などありますが、白血病治療で最も貢献したのは感染症対応だと思います。細菌に対する抗菌薬は薬剤選択の適正化、使用量の検討などで、昔ながらの何となく何でも効く抗菌薬を漫然と使うということがなくなって来ました。抗菌薬が効かない耐性菌を、増やさないようにするための努力は重要です。抗菌薬だけは、耐性菌は本人だけでなく、周りの患者さんに拡散する場合もありますので、注意が必要です。適正使用により耐性菌感染が減ると、医療のコストは改善します。

さらにカビ=真菌に対する抗真菌薬の種類が増えたのと診断方法の進歩が著しいです。真菌は生物学的に人間に近いのでなかなか治療が難しいのです。

もっとも、一番大切なのは、患者さんへの教育です。口腔内や身体を清潔に保つことや、加熱していない食事を避けること、感染的に問題となる人混みへの外出や汚染された環境を避けることなど、理解いただけると治療がスムーズに行えます。風邪をひくから風呂に入らないのは、ナンセンス。これらの注意や工夫が、治療を支えています。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。