トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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テレビドラマでは、確率の低い治療を成功させたり、謎の病気を診断したりするのが「名医」とされます。一方、血液内科では(多くの領域でも同じだと思いますが)、そのような医師は、あまり名医とは評価されません。

血液内科においては、普通に診断して、予定通りに治療をこなすのが、良医の条件だと思います。もちろん難病を治すことは、すごいことなのですが、白血病自体が既に「難病」クラスの病気であり、白血病の治療をしている医師が、他の領域の難病を診断、診療することは、負担が大きいことなのです。

イメージ的な名医とは、スポーツカーのドライバー的な感じで、改造車などでスピード制限を超えて、スリリングな運転をする感じでしょうか? 片や血液内科は、電車の運転士のように、時間通りに定められた乗車位置に列車を止める。もし、突発事項が起きても冷静に調整して元の運転スケジュールに戻すような仕事です。残念ながら、ドラマチックではありません。

サッカーでたとえれば、ポジション的には「ボランチ」になります。相手のパスコースをつぶしたり、ディフェンダーからのパスを受けて攻撃の起点になったり、という具合です。特にボールに触れずに試合をコントロールするところなど、共感する部分があります。玄人的には評価が高いのですが、なかなかスポーツ紙の1面は飾れない? 感じです。

個人的にも、白血病化学療法時に吐き気などの消化器症状もなく、発熱などの感染症の合併もなく、治療が完了できた時は、すごく「満足感」があるのです。患者さんからも「え? 治療、終わったの? 今回はすごく楽だった」と言われるとうれしくなるのですが、そんなに毎回うまくいくわけではありません。

合併症が起きても重症化させないために、早期発見、早期対処するのを信条にしています。患者さんの血液検査のデータを解析して治療内容と反応から血球減少のスケジュールを予定し、感染予防対処と輸血手配の準備をしています。そして問題なく次の治療を行う、そんな玄人志向の診療科なのです。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。