語源はいささか古いのですが、1978年(昭53)に解散した「キャンディーズ」のメンバーが80年以降に復帰して以降、1度引退した芸能人がその後復帰するケースがよく見受けられました。このことから「スターになって1度スポットライトを浴びた人は、辞めても時間がたつと、またライトを浴びたくなる」という言説ができました。

スポットライト症候群とは、スポットライトを一身に浴びるように1度華々しく世間から注目を浴びてしまうと、引退後もその恍惚(こうこつ)的な感覚を忘れることができず「もう1度スポットライトの中に立ってみたい」という欲求に駆られる状態をいいます。

主に引退した芸能人に対して使用されますが、一線を退いた政治家やアスリートに対して使用される例もあります。単に「目立つことが大好き」「自己顕示欲が強く、常に注目を浴びていないと気がすまない」「過去の栄光?」という意味合いでスポットライト症候群という言葉が使用されている例もあります。

この症候群に関する研究こそありませんが、わたしなりに検証すると、スポットライト症候群は、「快楽ホルモン依存症」といえるのではないでしょうか。

舞台の上でスポットライトを一身に浴びることで、脳に快楽ホルモンである、セロトニン(感情や気分をコントロールする神経伝達物質)、オキシトシン(人と人、または動物が触れ合う時に分泌される“幸せホルモン”)、ドーパミン(やる気のもととなる脳内物質)がジャンジャン出ます。その快楽度は、一般人の日常生活では味わえないようなものであり、例えば、プロ野球の選手がホームランを打った時と同様と考えられます。

しかし、引退後は、恍惚的な感覚をまた得たくなり、復帰を目指すようになる、というわけです。すなわち、スポットライト症候群になるということは、快楽ホルモン依存症になっているのだと思います。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。