世界的な感染拡大が続く新型コロナウイルス。未曽有のパンデミックに緊急事態宣言も発令され、社会のあり方が大きく変化している。他者とのコミュニケーションのあり方も大きく変化し、終息も見通せない重圧が続く。メンタルヘルスへの影響も懸念される中、「コロナうつ」との言葉も生まれた。長期化する「新たな生活様式」の中での「心」の問題とは。市ヶ谷ひもろぎクリニックの渡部芳徳理事長に聞いた。

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「コロナうつ」が人ごとではない状況にあっても、精神科、心療内科、メンタルクリニックをなかなか受診しない人が多い。受診しないのはなぜなのか-。そのあたりの理由もわかる調査、「働くうつ病患者さんの実態と課題、およびコロナ禍の影響」をルンドベック・ジャパン(株)と武田薬品工業(株)が昨年11月に発表しました。調査対象は、過去5年以内の就労期間中に精神科などを初めて受診し「うつ病」と診断された19歳~64歳の患者さん464人です。

精神科などの受診には、正社員、派遣社員などの雇用形態にかかわらず、全体の53%の人が抵抗を感じていました。具体的な理由で最も多かったのは、<1>「このまま仕事を続けられないかもしれない」(59%)、次いで<2>「うつ病と診断されることで仕事から外されるかもしれない」(36%)など。実際に、この連載の4回目で患者さんのケースを紹介しましたが、それはやはり<1>のケースでした。そして、うつ病と会社側がわかって退職させられている人は実際に多いし、その現実を私は見ています。

そして、コロナ禍での心身のストレスの変化は--。58%の人が「心身のストレスが増加した」と。その理由は「経済的な不安」「感染に対する不安」「外出を自粛しなくてはならなかったため」「将来の失業への不安」などでした。

このストレスの中、受診に結び付いたのは「自ら受診を思い立った」人が最も多いのですが、それができない人も少なくありません。その場合は、「家族・友人のすすめ」「同僚のすすめ」などがあって受診に結び付いています。周囲の人々の声掛けも、非常に重要なのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)