世界的な感染拡大が続く新型コロナウイルス。未曽有のパンデミックに緊急事態宣言も発令され、社会のあり方が大きく変化している。他者とのコミュニケーションのあり方も大きく変化し、終息も見通せない重圧が続く。メンタルヘルスへの影響も懸念される中、「コロナうつ」との言葉も生まれた。長期化する「新たな生活様式」の中での「心」の問題とは。市ヶ谷ひもろぎクリニックの渡部芳徳理事長に聞いた。

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私たち精神科医が診断補助ツールを使うのは、適切な診断と治療を行うためであり、さまざまな精神疾患で起こる「うつ状態」を、単に「うつ病」と診断するのではなく、鑑別診断をすることが重要だからです。さて、今回は「光トポグラフィー検査」を紹介します。

この検査は、目に見えない“心の病”を医療機器の「近赤外線スペクトロスコピー(MIRS)」を使って行います。機器は近赤外線を利用して、頭皮から20ミリほどの深さの大脳皮質を流れる血液に含まれるヘモグロビンの量を測定します。何カ所ものポイントで計測し、刻々と変わる血流の様子を波形で表示。その波形の形状によって、大脳の活動状態を知ることができるため、診断の補助になるのです。

「健常者の波形」は検査を始めると速やかにグラフは上昇し、大きな山をつくり、緩やかなカーブで下がっていきます。「うつ病患者の波形」は検査を始めても波は小さく、変化が乏しい。ヘモグロビンの量があまり増えていないからです。「双極性障害(以前の“そううつ病”)患者の波形」は検査を始めると緩やかに上昇して後半部分でグラフが高くなり、その後は緩やかに下がります。「統合失調症患者の波形」は検査を始めてもそれほどグラフは上昇しません。うつ病患者よりも多少上昇する傾向はあります。ただ、他の患者と大きく異なるのは、検査終了後にグラフが高くなる。これは反応の遅れで、はっきりとした特徴です。

このグラフと精神科医の診断に違いがある場合は、再度問診をして診断を行う必要があります。米国では双極性障害患者の60%がうつ病と誤診されていたという有名なデータがあります。私のクリニックでは診断精度アップのため、2007年に光トポグラフィー検査を導入。その前後のカルテを調査すると、うつ病から双極性障害へ診断が変わり治療薬が変更になった方がいました。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)