登山にまったく興味がないおじさんが、富士山の神々しい姿に酔いしれました。日刊スポーツ新聞社静岡支局長の柴田寛人記者(53)がこのほど、静岡県内3社連携フライトツアー「富士山遊覧飛行と大井川鉄道SLと南アルプスあぷとライン」に参加。富士山静岡空港からフジドリームエアラインズ(FDA)のチャーター機に乗り、雲海の上にそびえ立つ富士山を上空からながめました。

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今夏はコロナ禍の影響で、富士山は閉山。そのニュースを聞いても何とも思わなかった記者が、富士山に接近するチャンスを得た。10月24日午前7時30分ごろ、空港から出発。約10分後、進行方向右側の列から「お~」と声が上がったので、左側から右側に移動した。窓から外を見ると、雲海から富士山だけが突き出る様子が見えた。

9月28日の初冠雪観測から約1カ月。雪は山頂から白線を引いたように見えるだけで、山肌の大半は真っ黒だった。のぞき込むと、細かい谷が無数に刻まれ、表情の険しさが分かる。活火山として数十万年も生き続ける日本最高峰。初めて上空から近づき、威厳に満ちた姿を改めて感じ取ることができた。

県内在住の50代男性は、窓の日よけに小型カメラを設置。外の風景をすべて録画していた。「ツアー参加が決まって、初めてこのカメラを買った。撮れているかどうか分からない」と苦笑い。「富士山には、雪をたくさんかぶっている印象があったけど、今日はゴツゴツしている感じだった。なかなか見られない風景だと思うので、良かった」と満足げだった。

飛行機は富士山西側から左旋回。本栖湖上空から富士宮市方面に向かった。「もうすぐ左手にお座りのお客様も、富士山が見えます」と機内アナウンス。再び雲海に浮かぶ富士山が、目前に迫った。山頂から9キロ圏内は飛行制限区域で、入れないという。機長は「過去には、富士山に近づいた英国航空機が、空中分解した例もありました」と、大事故をさらりと解説。「この飛行機は風上にいますので、大丈夫です」と安心させてくれた。

眺望は広がり、静岡県中部の市街地や伊豆半島、伊豆諸島も見ることができた。8時20分ごろに着陸。わずか50分だが、富士山を中心に、上空からの大パノラマを満喫した。青森市から訪れた60代女性は「『あたまを雲の 上に出し』と歌い出す童謡があったけど、その通りだった。昔の人も同じような光景を見ていたのかな」と、想像を巡らせていた。

ツアーの舞台は、大井川鉄道に移った。絶景で知られる奥大井湖上駅から、井川線のトロッコ列車に乗車。日本唯一のアプト式鉄道区間(線路間の歯型レールとアプト式電気機関車のラックホイールをかみ合わせ、鉄道日本一の急勾配を安全確実に運転する区間)を走った。昼食は、川根温泉ホテルでの豪華バイキング。昭和初期製造のSL列車に乗り、古風な客車の中でレトロな雰囲気を堪能した。

大井川鉄道、FDA、富士山静岡空港の3社が協力するこのツアーは、2018年11月から始まり、今回が14回目。「富士山と鉄道の組み合わせが意外」などと好評で、満席が続く人気企画になった。今年9月には、日本観光振興協会などが主催する第6回「ジャパン・ツーリズム・アワード」で入賞。内容を充実させ、富士山に加えて日本アルプスや日本海方面を巡る「プレミアムフライト」を次の年末年始に開催することも決まっている。

ツアーの運営担当で大鉄観光サービスの野沢修氏(51)は「コロナ禍の影響で、FDAの機材やスタッフに余裕があるため、ツアーは11月に6度、12月にも5度開催します。FDAの運航が通常に戻れば、ツアーは月に1度ぐらいのペースになりますが、続けていきたい」と強調した。新型コロナウイルスの影響が根強く残り、長距離や長期間の旅行が敬遠される傾向にあり、気軽に参加できる日帰りツアーの需要が高まっているという。

来年2月23日は「富士山の日」と定められ、天皇誕生日の祝日でもある。同日のツアー開催に向けて、準備が進んでいる。

 

○…ツアーの詳細や今後の開催予定については、大井川鉄道の公式ホームページ(http://oigawa-railway.co.jp/)を参照。発売後数日で満席になることもあるという。「プレミアムフライト」は、12月30日と1月3日出発分を追加で募集している。問い合わせは大井川鉄道・静岡ツアーセンター電話054・204・0512(平日午前9時30分~午後5時)。