登山道に立つ案内板
険しい山道をもくもくと登っていく
タンクに水を入れてもらい、ひと息つく参加者たち
芋煮汁が冷え切った体を温めてくれる

 今月の14日。五泉市にある近藤酒造の「菅名岳」の仕込み水を汲(く)む「寒九の水汲み」が開催された。今回で25回目を数える県外からも注目のイベントだ。寒の入りから9日目の「寒九」は寒さと乾燥により雑菌の繁殖が抑えられ、この時期に汲む水は腐りにくいといわれている。三方を山で囲まれた五泉市は水の宝庫であり名峰菅名岳中腹には「どっぱら清水(胴腹清水)」と呼ばれる超軟水の、淡麗な酒造りに最適な水が豊富に湧き出ている。最も水が澄む時期に、飲み手自らが汲み、その水で醸した酒を飲めるという、酒飲みのロマンを駆り立てるイベントだ。

 主催は「菅名岳」を販売する酒販店で組織する「越後泉山会」。会長の羽下(はが)酒店の羽下武男さんは25年前を振り返る。「自分たちだけの、五泉ならではの酒を造ろうと、前市長のアイデアもあり始まりました」。当初35軒だったが現在会員は59軒。入会条件は「寒九の水汲み」を体験すること。

 数日前まで雪不足だったのがうそのように雪化粧した菅名岳の麓、いずみの里が受付場所だ。今年は県内外から約300人が参加。10リットルまたは20リットルのタンクをかつぎ林道を歩いて森へ。沢伝いの雪道を、時には木橋を渡るスリリングな道のり。要所要所でスタッフが除雪や誘導をする。越後泉山会員のほか地元山岳会や一般のボランティアスタッフもいる。新潟市から一般ボランティアとして参加していた男性は15年前から水汲みに参加しており、定年退職を機に5年前からボランティアスタッフに。その魅力を問うと「冬に体を動かせて、人に感謝されて、揚げ句に酒がもらえること」と気持ちのいい笑顔で答えてくれた。。

 スタートから約1時間。水汲み地点に到着。水源はさらに上にあるが傾斜がきつく狭いため、事前にスタッフがホースをセットし、少し開けた場所で参加者のタンクに水を入れていく。このあとは重い水を背負って下山。登りと下りのすれ違いでは下りが優先だ。ゴールし水を移送車のタンクに入れたら、五泉名物の帛乙女(きぬおとめ)をたっぷり使った芋煮汁が振る舞われる。さらにバスで咲花温泉へ移動し、美人の湯に浸かってから懇親会。この会を楽しみに参加する人も多い。

 の日汲んだ水で仕込んだ「菅名岳 生原酒」は2月24日の一般発売前に参加者に届く。飲む人、売る人、造る人、酒を育む自然を愛する人。1本の酒にさまざまな人たちの思いが凝縮されている。【高橋真理子】

[2016年1月30日付 日刊スポーツ新潟版掲載]