別れの時間です。日本一の生産高を誇る米と、清らかな水にも恵まれ、酒蔵の数も日本一である「酒王国」新潟。最終回は今連載を執筆したフリーライターの高橋真理子さんが、連載を通して感じたことを伝え、新潟清酒の今と未来を考えます。

 この2年間、酒蔵めぐりが日常にあった。

 この連載を担当するまで、雑誌などで県内の全酒蔵を紹介してきたものの、便利な世の中が災いし、電話やメールのやりとりのみの蔵もあった。今連載では、遠方の妙高や糸魚川、大小16の酒蔵がある長岡市の酒蔵のほぼすべてなど、83の酒蔵を訪ねた。酒蔵のある環境を五感で知り、蔵の空気を肌で感じ、蔵人たちの生の声を聞くことができた。

 県内の酒蔵数は現在90。全国一を誇る。一口に90といっても、県境の山に抱かれた谷間の地から、田園地帯の大河沿い、日本海の突風が吹き付ける海辺、旧街道の雁木の町並み、離島の港町など、立地も規模もさまざまだ。しかし酒蔵の存在感は共通している。最寄り駅に、そして町なかの電柱にある銘柄看板が、この町にこの酒ありと静かに主張する

 それもそのはず。90の酒蔵のうち81が、創業100年を超える歴史を持つ。たとえ見学ができなくても、蔵のある町を歩き、江戸や明治の頃のにぎわいを想像するだけでもわくわくする。これぞ酒蔵ツーリズムの醍醐味(だいごみ)。近くには酒屋があり、地元の野菜や魚介、大豆などを使った特産品を売る店がある。どれも酒のアテになるものばかりだ。

 今回の取材では経営者や杜氏から話をうかがった。ともに世代交代が進み、若手の台頭がめざましい。伝統を守りつつ、新たな味や販路に挑んでいる。さらに経営者も造り手も、横のつながりが強いことが、新潟流であると実感した。新潟清酒のプライドをかけ、日々飲むレギュラー酒も手を抜くことはない。柔軟に情報を交換しつつ、品質向上のため切磋琢磨(せっさたくま)する。これを可能にしたのが新潟清酒学校の存在、酒米「越淡麗」の誕生、そして全国最大規模の酒イベント「にいがた酒の陣」の成功にあることを再認識した。

 最後に、今回最も考えさせられたのが「水」のことだ。酒の成分の80%を占める水。その質が味を左右する。清冽(せいれつ)な雪解け水に恵まれた新潟では、この水を守ることが新潟清酒の文化を次世代へつなぐ大切なカギとなる。

 今年の5月、新潟県と新潟県酒造組合、新潟大学の3者が「日本酒学」構築の連携協定を締結した。酒どころ新潟として、全国に先駆けた注目すべき取り組みだ。文化、学術、産業振興、地域活性など、多岐にわたる連携により日本酒文化の継承と発展を目指す。「仕込み水」を育む環境の保護にもぜひ取り組んでほしい。では私たち飲み手ができることは…。そんなことを考えながら、こよいも至福の1杯をいただこう。お供はかきのもと(食用菊)のおひたしか。【高橋真理子】

[2017年10月31日付 日刊スポーツ新潟版掲載]