宮尾酒造/村上市
宮尾佳明社長は清酒専門評価者(独立行政法人酒類総合研究所)の資格をもつ

 鮭漁で知られる三面(みおもて)川の支流、門前川沿いに建つ宮尾酒造の創業は1819年(文政2)。一時期は廻船業も営み、貴重な古文書なども多く残るが、なかでも『酒造伝授秘法之巻』は特別な資料だ。

 『新潟県酒造史』(新潟県酒造組合発行)によれば、807年に著された大阪方面の酒造法を、1864年(元治元)に2代目又吉が書き写したもので、当時科学的に解明されていなかった酒造技術について段階を経て事細かにまとめられている。

 現在に至るまで、最高の原材料を使った丁寧な酒造りを「〆張鶴」に託してきた宮尾酒造。11代目の宮尾佳明社長が大切にするのは「地元に愛される、ふだん飲んでもらえる酒であること」。門前川対岸の自社精米所で米の磨きを管理し、普通酒「花」から3種類の純米吟醸まで、季節限定酒を含め14種類の「〆張鶴」を販売。

 その中で宮尾社長が今回選んだ一本は、暑さが増してくる季節にぴったりの季節限定酒「〆張鶴 吟醸生貯蔵酒」。飲み切りサイズの300ミリリットルの商品だ。すっきりとした味わいの中に、山田錦ならではのまろやかな、「〆張鶴」ならではのきれいな味わいを楽しめる。

 季節限定酒の中で、今回の一本とほぼ同時期に販売するのが「梅酒」だ。このラベルはイラストレーターの故安西水丸さんによるもの。「『安西さん、〆張鶴ですね』 この言葉が詩のように聞こえるほどに ぼくは『〆張鶴』が好きだった」。雑誌『Coyote(コヨーテ)』の2016年春号の特集のリードに引用された彼の言葉だ。30年以上前に京都で出会ってからとりこになり、たまたま村上市に取材で訪れたときに蔵に立ち寄ったのが、安西さんと蔵元との関係の始まりだった。

 2008年(平20)に梅酒を発売するとき、安西さんからラベルデザインを申し出たという。彼がこよなく愛した「〆張鶴 純」は五百万石を使った上品な味わいの純米吟醸酒で全国的にもファンが多い。その証しが『地酒人気銘柄ランキング』「純米吟醸酒」部門で20年連続第1位に輝いていることだ。このランキングは全国の居酒屋店による投票で決まる。かたくなに貫く〝地酒〟の思いが、いい酔い心地となって、日本、そして世界へ広がっている。【高橋真理子】

[2016年6月11日付 日刊スポーツ新潟版掲載]