お福酒造/長岡市
「伝統文化を守りつつ、チャレンジしていきたいですね」(岸伸彦専務)

 農山村の原風景である棚田が広がる山古志地区。錦鯉の養殖や、江戸時代に著された「南総里見八犬伝」にも記述がある牛の角突きなど、豊かな自然のもとで育まれてきた伝統文化や産業が今も息づいている。お福酒造は、身近にある山古志のすばらしい地域資源を生かしたブランド作りに取り組んできた。

 今回の一本「棚田栽培米 越後 山古志 純米吟醸」もその取り組みの一環だ。山古志の棚田で契約栽培した五百万石を100%使っている。「同じ五百万石でも、平場で栽培したものと中山間地のものでは味が違います」と岸伸彦専務は説明する。自然環境から来る力強さがそのうま味から感じ取れる。

 2004年の中越地震で山古志の棚田も、酒蔵も甚大な被害を受けた。しかし全村避難を余儀なくされたときも生産者は仮設住宅から通って米を作り続け、酒蔵と生産者が力を合わせて復興を目指し、酒を醸し続けてきた。「酒造りは田んぼが基本。米の作り手の魂を酒に映していきたい」と岸専務は熱く語る。

 米の個性を最大限に生かした酒を目指し、現在取り組んでいるのが酒米の品種ごとに同じ精米歩合の純米吟醸酒を造り、品種の特徴をブランド化することだ。「山古志 純米吟醸」は五百万石60%精米、それに対し「郷越後(さとえちご) 純米吟醸」は一本〆60%精米。「お福正宗 越後 純米吟醸酒」は55%精米の五百万石と越淡麗の2種類を商品化している。

 お福酒造の創業者である岸五郎氏は、現代の酒造りの基本となっている「速醸もと」の基礎を考案し、1958年(昭33)に醸造界初の黄綬褒章を受章。醸造技師時代の1894年(明27)には酒造りの専門書「醸海拾玉(じょうかいしゅうぎょく)」を発刊している。この本には、米の産地によって米の成分が違うことが書かれている。「創業者の研究を、現代の酒の味で証明していきたいですね」と岸専務。創業者のチャレンジ精神は脈々と受け継がれている。【高橋真理子】

[2016年5月28日付 日刊スポーツ新潟版掲載]