午前8時。ヤクルトが春季キャンプを行う沖縄・浦添のブルペンに、スコップを手にした男たちが毎朝集結する。小山田、大塚の両ブルペン捕手だ。真剣な表情でマウンドに歩を進め、地面に顔を近づけた。プレート板付近に黒っぽい物体を発見。表情を曇らせる2人。大塚ブルペン捕手は「うわー、あったー。最悪だー」と悲鳴を上げた。

 物体の正体は「猫のうんこ」だった。手早くスコップですくい上げて回収すると、新しい土を盛ってマウンドを整えた。猫よけの液体をまくなど、対策は講じている。だが効果はない。必ず、“ヤツ”の痕跡が残っている。小山田ブルペン捕手は「臭いが、やばい。目の奥が痛い。毎年来ているんですよ。戦いですね」と、つぶやいた。

 毎朝、2人は宿舎から出発する移動車の第1便で球場に来る。選手が到着する前に人知れずマウンドを整えるのは、浦添キャンプでの重要な、隠れミッションになっている。10時間以上の猛練習の日々を、猫のうんこの回収作業からスタートさせるとは…心中を察してあまりある。だが、2人の表情はなぜか暗くない。小山田ブルペン捕手は「投手に気持ちよく投げてもらえるように、猫にも見守っててもらいたいですね」と、優しくほほ笑んだ。

 チームを思って縁の下の力持ちを務める2人の姿を見ながら、考えた。「この猫はきっと、福を招く“幸運”の招き猫に違いない」と。ヤクルトに毎日“コーウン”が積み重なっていると、記者は臭いに鼻をつまみながら信じている。

 ちなみに、2人の完璧な仕事ぶりにより、ブルペンに猫のうんこがあることを知る投手は、ほとんどいない。【ヤクルト担当=浜本卓也】