ボソッとつぶやいたひと言に、日本球界で成功している秘訣(ひけつ)を見た気がした。球界でもトップクラスの陣容を誇る阪神の救援陣で、安定感が際立つのはピアース・ジョンソン投手だ。8月上旬の広島遠征。ロッカーからグラウンドに飛び出すと、あまりに容赦ない日差しに恐れをなしたのか首をかしげて「アツイネ…」と苦笑いした。

さらに言葉を継ぐ。「ムシアツイ…」。ちょっぴり驚いた。日本語の応用編をさらっと口にしたのだ。来日1年目の28歳。誰かに教わったのだろうが、すっかり異国になじんでいる様子を見て取れる。球団関係者も「PJはとても賢いんですよ。日本語もだいぶ覚えている」と感心したように話していた。

150キロ超の速球やブレーキの利いたカーブを武器に45試合に投げて防御率は驚異の0・80だ。35ホールドポイントはリーグ1位。「セットアッパー王」も視界に入る。開幕直後「マイナー以外で、8回の大事なところを任されたことがない。信頼してもらって、任されてうれしい。野球をやってて楽しいんだ」と意気に感じていたが、まさに大黒柱の働きを見せている。

心を整える。日課のように聞いている音声があるという。イヤホンを通じて聞こえてくるのは、自らのハートを奮い立たせてくれるパワーワードの数々だ。まるで試合前に見る「モチベーションビデオ」さながらの工夫を凝らし、マウンドへと向かっている。

しなやかでいて、ずぶとい心のありようは本当に頼もしく映る。シーズン佳境に入り、1勝、1敗の重みはいやおうなく増す。PJにとって胸突き八丁のマウンドが続くが、最高の見せ場でもある。玉のように汗が噴き出す「ムシアツイ」残暑の折だが、助っ人の立ち居振る舞いに注目しよう。【阪神担当 酒井俊作】