悲壮感の中に、覚悟を感じた。宮崎でのソフトバンクのキャンプ中、15日のことだ。予定された紅白戦は雨のため中止になるのだが、その試合前に室内練習場で甲斐野央投手が工藤監督にあいさつしていた。右肘の故障でリハビリ組に回ることが決まった。甲斐野は工藤監督だけでなく、投手コーチ、そして打撃コーチにも、その時室内練習場にいたコーチ、スタッフにもあいさつして回った。

昨年、セットアッパーとして大ブレークし、今年も同じ活躍を期待されていた。本人ももちろん、そのつもりだった。その中でのアクシデント。どうしようもないが、申し訳ないという気持ちが甲斐野をそうさせたのだろう。そして同時に、必ず復帰する「覚悟」も感じた。この1年、彼を見てきたが、外部から訪れる人にあいさつするときも、帽子を取り、手袋をわざわざ外して握手していた。律義な男なのだ。

プロ野球の世界では実力がものをいう。いわゆる社会でいう上下関係は、そこにはない。この時代、社会人でもその風潮は「昭和的」なものとしてレトロ感も漂っている。しかし、だ。「あいさつ」は大事だと思うし、そこには心が表れると思っている。

節目での「あいさつ」は見ていてすがすがしい。23日のオープン戦当日の朝、A組(1軍)に呼ばれた三森大貴内野手が、メイン球場のベンチ裏に立っていた。朝の集合でそこを通る選手、コーチ、スタッフ1人1人に、あいさつしていた。「よろしくお願いします」。B組(2軍)調整中で、キャンプ終盤のこの時期に実戦に呼ばれた。チャンスは逃したくない。その覚悟を感じさせる「あいさつ」だった。

三森を見ていて、今年私に律義な「あいさつ」をしてきた選手がいたことを思い出した。1月のことだ。選手たちが各自でやってきた自主トレに区切りをつけて、福岡・筑後市のファーム施設で自主トレを行い始めた日。53歳での担当記者復帰の年でもあり私も「覚悟」をもって「明けましておめでとう。担当として今年、よろしくお願いします」と次々と選手に声を掛けていた時、上林誠知外野手が遠くから近寄ってくるのが見えた。こちらからスタスタと近寄り「あいさつ」をした。多くの選手がそうだったように「こちらもよろしくお願いします」と言われてすれ違うだけかと思ったが…。歩みを止めると、持っていた道具を足元に置き、手袋を外した。「よろしくお願いします」。そういうと握手を求め、頭を下げた。そんなことをされた選手は初めてだった。私だけ特別ではないだろうが、彼の今年に懸ける「覚悟」を手のひらで感じた。

24日、ソフトバンクのキャンプは実質終了し、25日から練習試合が3日続く。長かったキャンプの成果が試される。開幕までもう1カ月を切った。選手たちの「覚悟」も試される。【ソフトバンク担当・浦田由紀夫】