顔に触れる柔らかな風が心地いい。青空にはためくヤクルトの球団旗。約2カ月ぶりに見る神宮球場の青いスタンド。緑のグラウンド。鬱々(うつうつ)とした日々を抜けた先には、明るい日差しに包まれた舞台が待っていた。

右翼席の後方にちょっと見えるスカイツリーと、わずかにスタンドが見える秩父宮ラグビー場も、大きくそびえる国立競技場も。まだどこにも人はいないけれど、お客さんを、歓声が訪れる瞬間を静かに待っているように感じた。

もちろん、まだまだ日常は遠い。感染拡大に最大限の注意を払い、監督もコーチ陣もマスク姿。選手同士のハイタッチも、肘タッチも、直接触れることはない。スタンドが燕党で埋め尽くされるのは、まだ先になる。もう以前と同じような光景は見られないのかもしれない…。そんな寂しい気持ちは、球場に響くミットの音、乾いた打球音が打ち消してくれた。

ふと、4月の代表者会議後に、衣笠球団社長兼オーナー代行が開幕について言及した言葉が思い浮かんだ。「国民の皆さんに『始まったぞ、少しずつ明るくなっていくな』と希望的なものの、具体的な例になるのではないか」。希望の光は、まさにグラウンドにあると感じた。

紅白戦では、原や寺島ら期待の戦力の好投があった。浜田、渡辺ら若手に加え、西浦、山田哲も本塁打を放ちコンディション調整は順調そうだ。球音には、もやもやを吹き飛ばすようなパワーが詰まっていると信じている。【ヤクルト担当 保坂恭子】

3回にソロ本塁打を放った山田哲はベンチのチームメートとエアーハイタッチ(球団提供)
3回にソロ本塁打を放った山田哲はベンチのチームメートとエアーハイタッチ(球団提供)