イースタン・リーグが雨天中止になって時間ができた午後。ロッテ永野将司投手(26)は本を読んで過ごす。「ノイローゼに効く本とか、憂鬱(ゆううつ)な時に読む本とか。メンタル系です」。同じ心の病を持つ人たちから送られてきたものだ。

3月12日、不安症の一種である「広場恐怖症」を公表した。ひと言でいえば、乗り物が怖い。飛行機や新幹線などの閉鎖空間で「出られなくなったらどうしよう」「このまま死ぬんじゃないか」とパニックになる。今春キャンプは不参加。大学時代に発症し、ずっと隠してきた。でも「プロ野球選手」が発信すれば、救われる人がいると思った。

SNSを更新したら、たくさんコメントがきた。「勇気が出ました。頑張ってください!」。15通ほどのファンレターは“同志”からだった。「いいお医者さんがいます」「私はこれで治りました」。球場を出れば、ファンが「順調ですか?」と気遣ってくれた。

励ますつもりが励まされた。「実際に治ってる人がいるんだなっていうのが感じられて。心強かったです」。昨季は薬の副作用でパフォーマンスが低下した。だから2年目は野球を優先。通院は極力、試合のない日に。都内まで「電車に乗って」行く。経過を観察し、グラフで恐怖心のレベルを書き表す。カウンセリングやVRで、根気よく自分自身と向き合っている。

ドラフト会議前、各球団は候補選手の資料を集める。150キロが出る即戦力左腕はどの球団にも魅力的。だが永野の指名にはリスクが伴う。北海道、九州と移動が多いパ・リーグならなおさら。5巡目まで名前は呼ばれなかった。「一緒に治していこう。君は戦力になる」とGOサインを出したのがロッテだった。

「1軍(の試合)は関東限定でもいいと言ってくれている。ホームゲームとか、連戦が続いてる時に上がれるように、コンディショニングだけはしっかりしようと思って」

進化して応えたい。浦和球場のブルペンで5、6月と連日投げ込んだのはスプリット系の落ちる変化球。「2年目で対策もされるし、真っすぐ以外の決め球を習得中です」。もともとフォークは持っていたが、空振りを狙い球速アップを求めた。スピードと曲がり具合、病気と野球。うまくバランスを取るのは難しい。ゆえに挑みがいがある。

病を公表し、少し軽くなった心は、課題を見つけて取り組むことの充実感を与えてくれた。「今、次のステップって感じがします」。9日、ひとまわり大きくなった永野に今季初めて1軍からお呼びがかかった。まず投球に集中できる環境づくりが最優先-。それは同日昇格した佐々木千隼投手(25)にも当てはまる。(つづく)【鎌田良美】