会社員なら、先に出社するのは先輩より若手、というステレオタイプがあるかもしれない。偉い人がゆっくり来る。重役出勤なんて言葉があるくらいだ。ロッテ浦和の景色は逆である。

今岡2軍監督を筆頭に首脳陣は早い。午前7時、細谷圭内野手(31)と34歳の大谷が先陣を切ってウオーミングアップを開始する。「若手はある程度決められたメニューがあるから、従ってやればいい部分はあるけど、僕らは任される。逆に時間取らないと」。全体集合後は即スパイクでダッシュ。それまでに体をつくる。準備の時間は年々のび、朝は1時間早くなった。

細谷はユーティリティーと称される。内野手登録だが16年には外野を守り、今季は緊急時用に捕手練習も行った。「去年のいつだったか、鳥越ヘッドに突然『キャッチャーいけんのか』って聞かれて。経験はあります、できますって」。即答したものの、高校生以来。いざブルペンに入ると、マシンの球でも戸惑った。

5月15日、捕球練習するロッテ細谷
5月15日、捕球練習するロッテ細谷

「俺らこんな球打ってんだ、ピッチャーって、こんな球投げてんだって」。真後ろの視界は打席とは別物。でも「ポジションにこだわってる場合じゃないからね。『よろず屋圭ちゃん』ですよ」と笑う。新たな挑戦が尽きることはない。

夢を抱いてプロの門をたたくフレッシュマンは、まず1軍出場、そしてレギュラー定着を目指す。14年目、30歳を過ぎて思う。「やっぱレギュラーっていうのは中心にはあるけど、チームなんで。チームとして動くのに必要な役割っていうのもある。それをやらなきゃいけない立場かなっていうのは感じてる」。欠けたピースを埋めて元の形に近づける。代打、代走、複数箇所の守備。そこそこの覚悟では務まらない。

周りはほぼ後輩になった。あいさつや礼儀がなっていなければ、注意もする。そうしてくれた福浦や、金沢2軍バッテリーコーチの背中を見てきた。自分の番だ。「俺より年上の人が叱ってたら、いかんいかん、俺が先に言わなくちゃって思うし。実績がもっとあれば言いやすいのかもだけど。そうじゃなくても、人間としてのところでね」。

7月初旬にはグラウンドレベルで40度にもなる浦和球場。昨年からベンチ横の小部屋にエアコンが取り付けられ、今月3日には室内練習場に巨大な扇風機が設置された。趣は残したまま、少しずつプレー環境は良くなっている。「チョコのにおいも、球場も、ここはロッテを感じられる場所」と細谷は言った。菓子工場の甘い香りをかぐたびに、必死だった1年目の記憶がよみがえる。「でもそのにおいがすると、浦和(2軍)にいるってことになっちゃうから。フレッシュな気持ちになると同時に、もう1回頑張ろうと」。

2軍はずっといるべき場所ではない。取材から掲載までの間に、細谷と佐々木、永野が1軍に昇格した。浦和の連載で登場人物が半分1軍って…一瞬考えた。だがこれでいいのだと思う。入れ替えが活発で、頑張った人にチャンスが来る世界。細谷がチョコレートのにおいの届かない千葉にいることを、喜ぼう。(この項おわり)【鎌田良美】