筑波大硬式野球部の監督で同大准教授の川村卓氏(49)に、科学の視点をもとに「打撃」を掘り下げてもらう。最終回は、今の球界で特徴的な打撃の選手と、日本人が目指すべき打撃について話してもらった。

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川村氏 オリックスの吉田正尚選手は、体が小さいのに本塁打も打てる。それはなぜか。第1回でお話しした、腰と肩の回転を比較すると、日本人の100人を調べて約90人は腰の回転が始まってから肩が遅れて出て、停滞しながらグーッと一緒に回る。最終的に腰と肩が一緒になるか、もしくは肩の動きが腰の動きを追い越し、インパクトを迎えます。しかし、吉田選手は全然違う。最初に捻転を作り、手が先に動きだして肩が回る。ある程度グリップが前に出たときに、最後に腰と肩が一緒にグンと回るのです。

吉田正の打撃の動き(右から左へ)
吉田正の打撃の動き(右から左へ)

力をためて一気に振りだすため、ホームランが打てるというわけだ。

川村氏 この打法は、新しい打ち方ではないかと思っているんです。実は吉田選手に「これまでどういう選手を参考にしたのか」と聞いたことがあります。「日本のプロ野球はほとんど見ていない。小さいころからメジャーリーグが好きだった」と言っていました。日本人は体が小さいので、効率良く力を伝えるにはどうしたらいいのか。結果、腰が先に回り、続いて肩が回るという教え方をしてきました。ただ、このフォームは腰を回してから肩が回る、という順序なので時間がかかります。吉田選手のフォームは、ギリギリまで引き付けてから、最後に一気に爆発する。

これまでの研究結果から、吉田正の打ち方はキューバのリナレスとよく似ているという。体つきは違うのに、同じように本塁打を打てる。

川村氏 ただ難しいのは、このスイングは腰を痛める可能性がとても高くなる。脊柱(せきちゅう)に力が集まるような動きをするから。いい面もあれば悪い面もある。僕らとしても、どちらがいいという結論は出せない。ただ今後、こういう打ち方も認めていかなければならない、とは考えています。

本塁打は、野球選手なら誰もが打ちたいと思う。

川村氏 第2回で話したように「ボールの中心から6ミリ下を、角度19度で打つ」という理想値もあるのですが、最初はボールに対して真っすぐに当てていくことを、ぜひやってもらいたい。日本ではどうしても回転をかけようとして、斜め上からバットを入れて打球を上げることが多いのですが、衝撃力が出ずに落ちてしまいます。一方、まともに直衝突をしてしまうと、ライナーにはなりますが途中で落ちてしまいます。ボールに沿った4度から7度の角度でバットを出して、ボールの若干、4ミリくらい下をしっかりと捉える練習を積んでいけば、ある程度の角度で、衝撃力が失われない角度で打つことができます。

最後に。子どもたちはどんな打撃を目指すべきなのだろうか。

川村氏 最初は、芯はどこかを理解しながらバットに当てることに力を入れて練習して欲しい。バッティングは、10回やって3回成功してOKなのです。凡打になった7打席をフィードバックし「もっとこうすれば当たるんじゃないか」と考えて練習をする。その積み重ねで打撃の感覚が身に付けば、能力が向上します。ただ振り回して結果だけを追うと、投手によって打つ、打てないがハッキリ出ます。いろんな投手に対応できる感覚を身に付けると、選手として大きく成長できるでしょう。

パワー不足といわれる日本の野球だが、バットの性質をつかみながら「動作解析」をもとに打撃を導き出すことで、これから大きく変わるかもしれない。(この項おわり)【保坂淑子】