新しいデータ指標、セイバーメトリクスを理解するための本を紹介する。

昨年末に出版された「セイバーメトリクス入門」(蛭川皓平著、岡田友輔監修=水曜社)は、近年のトレンドを踏まえた上で、セイバーの思考法から実際によく使用されているデータ項目が書かれている。19年のNPBデータを使っている点で、今季の成績予想にも使えそうだ。

「セイバーメトリクス入門」(蛭川皓平著、岡田友輔監修=水曜社)
「セイバーメトリクス入門」(蛭川皓平著、岡田友輔監修=水曜社)

セイバーでは、打者なら打率や打点、投手なら勝敗数といった伝統的な指標は、個人の能力を示すのにふさわしくないと考える。戦術では、送りバントと盗塁は、割に合わないものとされる。私は09~16年に日刊スポーツ紙面でセイバーの連載を行っていたが、盗塁への低評価には疑問を感じていた。

同書では、アウト数と走者の進塁で変化する得点期待値から、無死一塁での損益分岐点が盗塁成功率66~70%となるという。感覚的に合うと感じたが、実際に調べてみると19年のNPBで平均盗塁成功率は69%。偶然とは思えない一致に驚いた。また「データには表れなくても、実際は盗塁を仕掛けるような俊足が塁上にいるだけで投手に重圧がかかるなどの副次的効果があるのでは」とも考えていたが、こちらは否定するデータが紹介されている。

また、送りバントは無死二塁のみ有効で、他のケースは打率1割3厘が損益分岐点となるとしている。

「マネー・ボール」(マイケル・ルイス著、ランダムハウス講談社)
「マネー・ボール」(マイケル・ルイス著、ランダムハウス講談社)

書名に「入門」が入るが、数式と関数グラフがあるため、初めてのセイバー本としてはとっつきにくさを感じるかもしれない。まずはMLBのアスレチックス躍進を描いた04年発売の「マネー・ボール」(ランダムハウス講談社)から入ることを薦める。著書のマイケル・ルイスは金融を得意とするベストセラー作家で、ストーリー展開が抜群に面白い。まずは数字へのアレルギーを払拭(ふっしょく)したい。

「ビッグデータ・ベースボール」(トラヴィス・ソーチック著、角川書店)
「ビッグデータ・ベースボール」(トラヴィス・ソーチック著、角川書店)

次に16年に刊行された「ビッグデータ・ベースボール」(トラヴィス・ソーチック著、角川書店)も欠かせない。近年は統計データ以外に、トラッキングデータ(球や選手の動きなどを数値化したもの)が登場。20年連続負け越していたパイレーツは、これを活用して13年から3年連続2位と変身した。特に「フレーミング」という、ストライクゾーンぎりぎりの球を審判にストライクと判定してもらう捕球技術に注目。技術ある捕手を入団させることで、投手力を改善した経緯が描かれている。【斎藤直樹】